昨日、高円寺の古本酒場コクテイルで行われた星野博美さんの『島へ免許を取りに行く』(集英社)の刊行記念トークショーは無事終了。店主の狩野さんがやたら緊張していて、おかげでちょっと気が楽になった。でも飲みすぎた。
《四〇年以上生きている人間にとって、昨日できなかったことが今日できるようになる、というのは、ほとんどありえないことだ》
《人間、何かができれば嬉しいし、できなければ悲しい。できないことばかり考えていたら前には進めない。だからできないことは、「自分には向かない」と言い訳して存在を無視する。そうやってこれまで生きてきた。それは年齢を重ねるにつれ習得した、生きるためのノウハウのようなものだった。
しかしそれはいつしか自分にぴったり張りついた皮膚のようになり、そこへ開き直りが加わり、ほんの小さな努力さえ怠るようになっていた》
わたしは車の免許を持っていないのだが、これまでも仕事がひまな時期になると免許のことが頭をよぎった。
たまに帰省したときに車の運転を頼む父も七十歳をこえている。最近、父がもみじマークになる前には免許を取得したほうがいいのでは、と考えるようになった。
でもまだ迷っている。
すこし努力すれば手が届きそうな目標を設定することの大切さ——。
自分は何ができて、何ができないのか。できないことができることによって自分はどう変わるのか。
『島へ免許……』は、何か新しいことを学ぶことのむずかしさ、それを乗り越えていくためのヒントをたくさん教えてくれる本だ。
《私はこれまでの人生、いわば一点集中を信条にして生きてきた。たいした才能もなければ人と違った特異な経験を持っているわけでもない。そんな人間がものを書いたり写真を撮ったりするためには、人より長い時間その場に立ち、人より長く考えるしか対抗する術がなかったからだ》
《もしかすると車の運転というものは、これまでの人生で培った価値観を、一度捨てるくらいの覚悟が要る異文化なのかもしれないぞ》
トークショーで星野さんは「運転していると、脳みそのこのへんが熱くなるんですよ。パソコンのハードディスクみたいに」といって後頭部の右側を押さえ、島の自動車学校でやっていたイメージトレーニングを実演してくれた。
会場には同世代の人もけっこう来ていて、「四十代の迷走」の話はそれぞれおもいあたるところがあるようだった。
(追記)
コクテイルで星野さんのサイン本が販売中です。あと拙著『活字と自活』(本の雑誌社)も……。まだお持ちでない人はぜひ。