2013/03/30

野球の本

 近所のコンビニエンスストアの新聞のコーナーで『丸ごとスワローズ』(サンケイスポーツ特別版)というタブロイド紙の創刊号を買う。三百円。
 ヤクルトファン以外はまず買わないとおもわれる新聞である。

 子どものころ、若松勉さんの大ファンだった(もちろん今も)。「小さな大打者」といわれ、フェンス際の打球をジャンプしてとるのがうまかった。通算打率(四千打数以上)が三割一分九厘というのは、日本人選手の中でトップである(一位はリーの三割二分)。

 近鉄沿線に住んでいたので、郷里(三重)にいたころは、ヤクルトと近鉄バファローズを応援していた。

 だからというわけではないが、近鉄からヤクルトに移籍し、メジャーでも活躍した吉井理人投手にはおもいいれがある。
 新刊の吉井理人著『投手論』(PHP新書)もすぐ読んだ。

《僕と同じ時期にメジャーで活躍した伊良部秀輝は、ボールの出どころがわからない投げ方を「スモーキー(煙)」と呼んでいた。メジャーで長く活躍する投手は、たいがいスモーキーなフォームのピッチャーだ。(中略)一方、スモーキーでない投手の場合、リリースの瞬間をしっかり見られるだけでなく、ボールの軌道までが線で打者に感じとられてしまうことから、打ち頃の球になる》

 球の速さや勢いだけではプロの世界ではなかなか通用しない。投手にとっては、癖のないきれいなフォームよりも打者から見えにくい変則フォームのほうが利点になる。
 強気で闘志あふれるピッチングが持ち味のようにおもっていたのだが、吉井投手自身、「スモーキー」なピッチャーで、打者との駆け引きに神経をつかっていたという。

 プロの世界で生き残るための工夫というのは、ジャンルがちがっても何かと勉強になる。わかりやすい文章を書くこということは、投手でいえば、コントロールのよさに相当するかもしれない。球威や変化球、そして「スモーキー」といわれるような独特なフォームを身につけることも大切になってくる。

 この本の最後のほう(奥付の手前の頁)に小さな字で「編集協力 本城雅人」とあった。
 本城雅人の『スカウト・デイズ』(PHP文芸文庫)や『嗤うエース』(幻冬舎文庫)は好きな野球小説である。

 PHPの「小説・エッセイ」文庫『文蔵』(4月号)の特集は「『野球小説』の名作を読む」もおもしろかった。

「このスポーツならではのドラマを味わえる55作」(文・大矢博子)は読ませる。この号は永久保存版になるとおもう。