『フライの雑誌』の最新号が届いた。
真柄慎一の「一生懸命」は、あいかわらずの筆のさえ、というか、人柄がにじみでている文章だ。
歌舞伎町のスーパーで深夜アルバイトをしていたころを回想した話で、職場には四十歳すぎのミュージシャンのバイトリーダーをはじめ、一癖も二癖もあるバイト仲間がいる。
その中で真柄さんは、自分のことを「いたって普通の人」とおもっていた。
あるときバイトリーダーに趣味の釣りの話をする。
……これ以上は紹介しないが、すばらしい短篇小説を読んだ気分になった。
タイトルの「一生懸命」の意味もちょっとほろ苦い。
わたしはこういう話に弱い。
前号(百号)の真柄さんの「幼なじみ」も読み返した。
保育園で二人の友人と仲良くなり、小学校、中学校とずっといっしょにすごす。高校は別々になったが、しょっちゅう会っていた。しかし高校を卒業すると、それぞれの生き方もちがってくる。
ひとりは家業の建設会社を継ぐために大学で勉強、もうひとりは老舗旅館の若旦那として修行することに……。
そして「僕」はなんのあてもないまま上京する。
《ミュージシャンになる夢はたったの二年で諦めた。田舎でそこそこだった若者は東京で全く歯が立たなかった。そこから努力すればいいものの努力の仕方が分からなかった》
音楽で挫折し、ひょんなことから釣りをはじめる。
趣味は、仕事や生活に支障が出ない範囲でやるべきだ——でも世の中には、その範囲を逸脱してしまう人たちがいる。
すくなくとも、わたしはそういう人たちが羨ましいし、憧れるし、できれば自分もそうありたい。
何かひとつでもいいから夢中になれるものがあって、ひたすらそれを追い求める。
頭の中がフライフィッシングのことでいっぱいになって、完全に釣りが中心の生活になる。傍目にはたいへんそうだけど、すごく楽しそうなのだ。
堀内正徳さんの「みいさんに会いに」(一)も濃厚な人間模様を描いた私小説として読んだ。堀内さんがひとりで北海道に釣りに行く計画を立てていたら、飲み屋の店主のコジマさんに「おれも北海道へ連れていってくれないけ」と頼まれる。
奥さんが北海道にいるのだ。それから話はどんどん勝手な方向に転がり、いっしょにミニコミを作っていた先輩のくろさんも加わり、気がつくと、男三人、知り合いのトラックを借り、旅に出る。
関越自動車道に入る前から、前途多難な雰囲気が……。
この先どうなるんだろう。