ニューズウィーク日本版のコリン・ジョイスのコラム(Edge of Europe)を愛読している。毎回ほんとうに素晴らしい。
今回のイギリスの国民投票は、体制派のエリート層がEU残留を主張し、特権階級に反発する層がEU離脱を支持した――そうした構図があるとコリン・ジョイスはいう(「パブから見えるブレグジットの真実」「特権エリートに英国民が翻した反旗、イギリス人として投票直後に考えたこと」など)。
《現代のイギリスでは、家を持つ人と持たざる人、裕福な地域に住む人と貧しい地域の出身者、専門職に就く者と低賃金労働者が大きく分断されている》(パブから見えるブレグジットの真実)
体制派、産業界、メディアの人々はイギリスのEU離脱を「正気ではない」という。彼らに共通しているのは「持たざる者」ではないということだ。
《残留派は自分たちの考えが言うまでもなく正しいと考えがちだった。同意見の人とばかり付き合っており、離脱派に正しいことを教えてやりたいのは山々だが彼らを説得する方法が分からないと考えていた。一方の離脱派は、そうした「都会派エリート」に怒りをおぼえ、彼らに指示されるのなんかお断りだと思っていた》(「特権エリートに英国民が翻した反旗、イギリス人として投票直後に考えたこと」)
都会派エリートは「持たざる者」が通いつめる安さが売りの店ではなく、もっと上品なパブで酒を飲む。名門の私立大学を卒業し、ロンドンに家を持ち、EUから利益を得ている人たちの多くは「残留派」だ。彼らが「EUを離脱したら君たちの生活だって困る」と力説しても、今、すでに生活に困っている人からすれば「何いってんだ」ってことになる。さらにいうと、「残留派」による「離脱派」への批判の中には「離脱」を支持する人にたいする「蔑視」の感情も含まれている。
今回のイギリスの「EU残留/離脱」を問う国民投票は現状維持か変化かという二択でもある。
今の生活に不満を抱えている人たちは現状維持を望まない。仮に離脱したことでさまざまな弊害が生じる可能性があったとしても変化を望む。そうした心情を「上品」なパブで酒を飲んでいる人たちはわからない。
いいことかわるいことかはともかく、現状に不満を抱える層が多数派になれば、現状維持よりも変化を望む声が大きくなるだろう。現状よりもっとひどいことになる変化であってもだ。
日本の都会派エリートの多くも「同意見の人」とばかり付き合っている傾向がある(いちおう自戒をこめてます)。それゆえ、彼らが正しいとおもう理路を説いても現状に不満を抱えている層には通じにくい。むしろ反発をまねくことのほうが多いかもしれない。すくなくとも現政権にたいする「ポピュリズムだ」「反知性主義だ」といった批判はまったく届いてないとおもう。
……と、ここまで書いたところで「『ブレグジット後悔』論のまやかし」というコリン・ジョイスの最新記事が公開された。
国民投票の結果が出た後、離脱に投票したことを後悔している——という声がよく取り上げられている。わたしも日本のニュースでそういう映像をたくさん見た。
《これもあくまで一つの論として付け加えておくなら、もしも残留に決まっていた場合、きっと残留に投票した人の多くも、後々自分のしたことを後悔するようになると思う》