2017/09/11

幸運な占領

 占領期に関する本を読み続けているのだが、鮎川信夫著『時代を読む』(文藝春秋)にも「〈日本占領革命〉の全貌」「〈占領〉と経済の民主化」といったコラムが収録されている。

 いずれもセオドア・コーエン著『日本占領革命 GHQからの証言』(上下巻、大前正臣訳、TBSブリタニカ、一九八三年刊)について書かれたものだ。
 セオドア・コーエンは一九一八年生まれ。大学時代に日本の労働運動を研究し、GHQの労働課長をつとめていた人物である。
 鮎川信夫によると、コーエンは「左翼(共産主義者)と見なされて監視されていたらしい」とのこと。後に、日本人女性と結婚し、退官後はカナダの商社の代表として東京に住んでいた。

 コーエンの著書を読んだ鮎川信夫はマッカーサーの占領政策について「傲慢なまでの正義貫徹と解したほうが、わかりよいかもしれない」と述べている。
 わずか数カ月のあいだに「主要戦犯容疑者三十九人の逮捕、検閲制度の廃止、人権の確立、治安維持法撤廃、政治犯釈放、婦人の解放と参政権の施行、労働組合組織化の奨励と児童労働の廃止、学校教育の自由主義化、秘密警察制度と思想統制の廃止等々」を断行した。

 コーエンの「あのきわめて風変りな占領」という言葉を受け、鮎川信夫は「風変りもなにも、歴史上、他に比べるものがない占領であった。(中略)今の米国には、とてもあんな力はないから、おそらく絶後といってもよいだろう」と記す。

《それにもまして、マッカーサーが軍事戦略家としての習慣から「つねに自らを相手の立場に置く傾向」があって、自分が農民なら自分の土地を求めるし、労働者であれば組合を結成すると考えていたという指摘は重要である》

《戦前と戦後の政治を考える場合、一番大きな違いは、戦前は政治家の顔が、軍閥と財閥の方に向けられていたのに、戦後は、労働者と農民の方に向けられていることである。これも軍閥を消滅させ、財閥を解体させた占領政策のおかげである》

……『日本占領革命』を読みたくなった。