2017/09/04

たった三行

《昭和恐慌は左翼をつくり、次いで反作用として右翼をつくり、右翼的部分がひろがって満州事変(一九三一年)という冒険をやらせ、うわべだけの解決を見た。が、十四年後には日本そのものをほろぼした》

 昭和恐慌から敗戦まで文庫本でわずか三行。司馬遼太郎著『以下、無用のことながら』(文春文庫)の「新春漫語」の言葉である。初出は「中日新聞」(一九九四年一月一日)。

《簡単にいうと、太平洋戦争は、あのとき愚かにして狂信的な軍閥が、突如として起こしたものではない。明治以来、日本人の大半がめざし、走りつづけて来たコースの果てだ、ということである》

 この要約もすごい。やはり文庫本で三行。山田風太郎著『昭和前期の青春』(ちくま文庫)の「太平洋戦争私観」の言葉である。初出は「週刊読書人」(一九七九年八月二十日号)。

 歴史はむずかしい。太平洋戦争にしても全肯定から全否定までいろいろな解釈がある。資料や証言にしても何を信じ、何を信じないかで答えはちがってくる。そもそも答えが出るのかどうかすらわからない。だから常に考え(疑い)続けるという姿勢が問われる。司馬遼太郎の「反作用」、山田風太郎の「コースの果て」は考えさせられる言葉だとおもっている。