昔、よくわかっていなかったことに、生活レベルの差がある。
右も左もわからないという言葉があるが、上も下もわからない。
風呂なしアパートに住んでいた二十代のころ、年上の編集者数人と酒を飲んでいると、ずっとマンションを買う話が続いてまったく会話に入れないことがあった。同じ趣味の古本の話でも、ジャンルのちがい以上に、生活レベルのちがいに戸惑うこともある。
ふだん五百円以下の本ばかり買っていると、数万、数十万円の本の話についていけない。
逆にものすごい貧乏もわからない。読書はお金かからないが、時間はかかる。趣味に没頭できる時間があるということはそれなりに恵まれた境遇ともいえる。
今のわたしは新幹線を利用するが、三十歳までは交通費に金をかけるのは無駄だとおもっていた(その分、古本が買いたかった)。わからないという感覚を自覚することはむずかしい。