2020/03/05

第四稿

 寒くて風が強い。夕方神保町。東京メトロ東西線の九段下駅から中野駅、そこから歩いて高円寺に帰る。
 すこし前に買って積ん読していたジョン・マクフィー著『ピューリツァー賞作家が明かすノンフィクションの技法』(栗原泉訳、白水社)を読む。
 ライター関係の技術書、入門書は買う。読んですぐ役に立つアドバイスもあれば、時間が経ってから有益な知識もある。何がどう役に立つか、そう簡単にはわからない。わかれば誰も苦労しない。

 原書の題は「Draft No.4」、つまり「第四稿」である。このタイトルだと内容がわからない。しかし、いい題名だ。わたしが書店で手にとるのは『ノンフィクションの技法』だけど、読後、家の本棚に並べたいのは『第四稿』だ。

 この本の中でも「第四稿」が読みごたえがあった。
 行き詰まって書けないときは、自分の能力不足に関する愚痴など何でもいいから書けというようなアドバイスする。ライター歴三十年のわたしも実践している。

 テーマと関係ないことを書いているうちに力が抜けてくる。ジョン・マクフィーは最終稿ではその部分を削れというが、わたしはわりと残す。そのあたりがノンフィクションとエッセイの技法のちがいだろう(たぶんちがう)。どうでもいいことを書いているうちにエンジンがかかってくる。すくなくともわたしはそう。

 また「わたしの文体っていつも、そのとき読んでいるものと同じか、さもなければ、自己意識の強い、ぎこちない文になってしまう」というジェニーの悩みにたいし、マクフィーはこう答える。

「そりゃ、困ったことだね、もしきみが五十四歳だというなら。だが、二十三歳ならそれが当たり前だし、重要なことでもあるんだ」

 この続きの言葉もいい。何が書いてあるかは読んでのお愉しみということで。