2008/01/24

半分の事実

 先週末、京都から扉野良人さん上京。土曜日の夜、三軒茶屋のグレープフルーツムーンで前野健太withおとぎ話のライブを見る。新曲「鴨川」がよかった。もちろん「熱海」も。
 そのあと古本酒場コクテイル。晶文社の宮里さん、前田青年も合流。カウンターには、ささま書店のN君もいて、扉野さんと妙に意気投合していた。

 大晦日に京都で会った青年も、高円寺の友人宅に居候中とのことで、扉野さんに呼び出してもらう。さらにコクテイル常連のK君も加わり、扉野さん、N君、K君で朝までカラオケをしたそうだ(わたしは先に帰った)。

 日曜日は、西荻ブックマークの「ザ・メイキング・オヴ・『足穂拾遺物語』」(高橋信行、高橋孝次、羽良多平吉、郡淳一郎、木村カナ)に行く。開演前に音羽館によると、自転車に乗った石神井書林の内堀さんと遭遇した。

 稲垣足穂の資料探しなど、その道の研究者の凄みを痛感。中学生のころの文集まで探し出して研究している。
そういう世界は自分の手には負えないとおもっているので、一読者として楽しませてもらうつもりだ。『稲垣足穂拾遺物語』(青土社)は来月刊行予定……とのことだが、編集にものすごく手間をかけているため、いつ刊行になるかわからないらしい。

 翌日しめきりもあったが、二次会にも参加し、「飲み放題」に浮かれて、ウーロンハイ、ジンライムなどを七杯飲んだ。
 そのあと何人かとコクテイルに……。
 いろいろな人に会って、いろいろな話を聞いて、あっという間に深夜一時半。この日もわたしは先に家に帰った。記憶の中では楽しい週末であったが、担当編集者には「ずっと仕事をしていた」といってある。

 月曜日と火曜日は、仕事で疲れたせいか、日中ほとんど寝ていた。
 気がつくと、水曜日の朝になっていた。
 なにも考えずに洗濯機をまわしたら、外は雪だった。
            *
 話は変わるが、家でゴロゴロしていた先週、ワイドショーでは、女優Mの次男Tが覚醒剤所持で三度目の逮捕された事件のことがくりかえし流れていた。
 次男Tは学生のころから毎月数十万円のこづかいを与えられ、大人になってからもそれが続いた。
 子どものころ、ほしいものがあって、親にねだると「自分で働いて給料をもらえるようになったら買え」とほぼつっぱねられた。
 そのせいかどうか、仕事をした報酬でほしいものを買う喜びを充分味わうことができた。
 しかし次男Tには、そういう経験はおそらくないだろう。
 苦労知らずの恵まれた境遇というものが、かならずしも、幸運とはかぎらない。

 次男Tほどではないが、子どものころから金を与えられすぎて無気力になってしまった人間を何人か知っている。
 親は共稼ぎ、かまってやれない分、金あるいは物を与える。よくあることだ。もちろん、そういう境遇に育ったからといって、次男Tのようになるとはかぎらない。

 仕事をはじめたころは誰にだっておもうようにならないことがたくさんある。
 わたしの場合、食費がいる、家賃を払わねばならんといったミもフタもない現実によって、仕事に駆り立てられていたところがある。

 そのうち生活必需品が揃って、別にこれといったものがほしくなくなった途端、労働意欲もなえてしまった。
 趣味は古本だけ。古本は均一なら、五冊百円でも文庫本が買えるし、転売もできる。それなりの知識がついてくると、買ったときの値段よりも高く売るということも可能になる。

 二十代のころは風呂なしアパートに住んでいたので、それこそ十万円もあれば生活できた。
 原稿を書かなくても、たまに校正のアルバイトをやって、月にテープおこしを四、五本もすれば、それで家賃と光熱費と食費はどうにかなった。
 しかしそういう生活をしていると、向上心がなくなってくる。

 次男Tの話からそれてしまったけど、昨年、仕事をしていない三十歳手前の遠縁の知り合いがいるのだが、「なんとかならないか」とその親から相談を受けた。
 ようするに、フリーライターになりたいらしい。なんとなく、(大学も中退して)ふらふら遊んでいるわたしでもなんとかやっているのだから、楽そうな仕事だとおもわれたようだ。
 二十代半ばくらいまでなら「とりあえずやってみたら」と軽くいったかもしれないが、さすがに今はそういう気になれない。

 一念発起して、必死にとりくめば、三十歳ならまだまだ間に合う。とはいえ、すでに同世代でメシの食えている人間の二倍か三倍の労力を要するだろう。「楽そう」とおもっているようではちょっと見込みがない。
 フリーの自由業の人が、怠けていたり、遊んでいたりするのは、半分は事実であるが、半分は事実ではない。
 人それぞれの職業上の秘密がある。

 秘密だから、簡単に教えるわけにはいかない。