まもなく(七月十三日予定)、新刊『活字の自活』(本の雑誌社)が発売になります。
表紙は山川直人さんに描いていただきました。古本屋と中古レコード屋と喫茶店のある町の絵。すごく気にいってます。
昨日、西荻ブックマークで古書現世の向井透史さんとトークショー。
三年前にメルマガの早稲田古本村通信で「高円寺だより」という連載をはじめたころ、向井さんから「今二十代くらいの若い人に向けた文章を書いてみては」というようなことをいわれた。
ちょうど同じ時期に、無責任な立場ながら、わめぞの活動に参加させてもらうようになり、それまでどこにいっても若手だったのが、いつの間にか、自分が年輩組にいることに気づいた。
仕事が長続きしない。人間関係がうまくいかない。生活に困っている。
今の二十代で本に関する仕事をしている人の境遇は、わたしが二十代のころよりもはるかに厳しい。
若い人といろいろ話をしているうちに、こうすればよかった、ああすればよかった、とおもったことがある。昔の自分にやれといっても、たぶん、できなかったことかもしれないけど、そういうことをいったり、書いたりしてもいいのではないかとすこしずつ気持が変化していった。
そのきっかけになったのが、向井さんの一言だったのである。
『活字と自活』は、不安定な仕事をしながら趣味(読書)と生活(仕事)の両立する上での試行錯誤をつづったコラムとエッセイを集めた本といえるかもしれない。
トークショーの最後のほうで、しどろもどろになりながら、今回の本で紹介している中井英夫の『続・黒鳥館戦後日記』のことを話した。
西荻窪のアパートに下宿していた若き日の中井英夫は「僕に、どうにか小説を書ける丈の、最低の金を与へて下さい」と綴っている。
この日記には次のような理想の生活を書いてある。
お客がきたら米をごちそうし、一品料理でもてなしたい。新刊本屋、古本屋をまわって好きな本を買い集めたい。レコードがほしい。ウイスキーや果実酒を貯蔵したい。友達に親切にしたい。芝居や映画が見たい。
自分の生活が苦しいときに、現実を忘れさせてくれるような壮大な物語を読みたいとおもうときもあるのだが、どちらかといえば、わたしは直視したくないような現実をつきつけられつつ、それでもどうにかなるとおもえるような本が好きだった。
気がつくと、トークショーでは貧乏話ばかりしていた。