2012/01/30

馬ごみの話

 阿佐田哲也著『無芸大食大睡眠』(集英社文庫)を再読した。

「書き初めに一言」というエッセイでは、正月に遊びほうけて自己嫌悪に陥り、「疲れた」「隠居したい」といった愚痴をえんえんとこぼしているのだが、それから急に話が変わって、阿佐田哲也が人から聞いてもっとも印象に残った言葉を伝える。

《長く生き残っていくというのはむずかしいですねえ。あんまりリードしすぎて、ぶっ千切って先頭に立ってはいけないですよ。他の皆の目標になりますから。皆、誰だって能力自体はそれほど差はないんですから、目標にされたら損です。潰れる可能性大ですね》

 ある日、阿佐田哲也の家にふらっと現われた三十代の無職渡世の青年の言葉だそうである。
 この話には続きがある。

(……以下、『閑な読書人』晶文社所収)