二〇〇八年一月号からはじまった『小説すばる』の「古書古書話」が先月号終了——。月刊誌で十年連載を続けられたのはほんとうにうれしい。
今月号からは「自伝の事典」という連載に変わりました。第一回目は佐藤春夫。タイトルに「事典」と付いているが、作家、漫画家、ミュージシャンといった人たちの自伝(評伝)を中心に取り上げていく予定です。
「古書古書話」のときも何度となく自伝を取り上げていた。
不遇な時期をどう乗り切ったかというのは、昔からわたしの関心事のひとつで、自伝を読んでいるときもそのあたりのエピソードがいちばん気になる。
あとデビュー作や出世作が出る直前もおもしろい。
不遇といっても、後からふりかえると、その時期があったからこそ、成長できたという話はいくらでもある。
わたしも二十代半ばから三十歳にかけて、仕事がなくて、本やレコードを売りさばきながら、どうにか生活をしていた。そのころ、知り合った人たちのおかげで、三十代は楽しくなった。ひまだったから、本もたくさん読めたし、自炊の腕も上がったし、倹約、節約の知恵も身についた。
浪人とか落第とか中退とか失業とか、その渦中にいるときはしんどいことが、自伝ではいちばんおもしろい部分になる。