2020/04/15

マイナーポエット

 東京都の休業要請の新リスト——新刊書店はOKで古書店はNGときたか。
 夕方のニュースでは「古本は趣味だから」というような理由をあげていたが、古本屋には買取という仕事がある。古本屋に行く人の中には蔵書を売って、その日の晩メシの食材を買ったり、家賃の足しにする人間もいる。

 家で『なんのせいか 吉行淳之介随想集』(大光社)を再読していたら「短編小説私見」というマイナーポエットについて綴ったエッセイがあった。

《マイナー・ポエットという言葉があって、これは貶す言葉であると同時に、褒め言葉である。私は小説の世界では、マイナー・ポエットが好きだし、私自身その範疇に入るとおもっている。わが国の近代小説の短編の傑作は、みなマイナー・ポエットの手によって書かれている。芥川竜之介、梶井基次郎、牧野信一、太宰治…。みなマイナー・ポエットである。ということは、醇乎たる芸術家であるということだ。井伏鱒二氏にしても、近年大作家の風格を備えてこられたが、本質はマイナー・ポエットである。そして、マイナー・ポエットがその本領を発揮するのは、やはり短編の分野なのである》

 昨年の『本の雑誌』十一月号の特集「マイナーポエットを狙え!」で岡崎武志さん、夏葉社の島田潤一郎さんとの座談会に参加した。

《島 井伏鱒二の一連の作品ってまさにそういう小説とエッセイの間というか、そういうものをかなり早くからやっていろんな人に影響を与えてますよね。でもマイナーポエットというときにあまり名前が出てこない。
 魚 やっぱり井伏鱒二は文豪、大家感がすごいからかな。
 岡 そうだね。でも資質としてはマイナーポエットでしょう。長編もそんなに書いていないし。だから二十代で亡くなっていれば間違いなく伝説なんですよ。
 魚 二十代の井伏鱒二は絵描きを目指していてあんまり小説はないですから(笑)》

 そんな会話をした。井伏鱒二はマイナーポエットかどうか問題——一九六七年に吉行淳之介がすでに論じていたんですね。ちなみに井伏鱒二の初の作品集『夜ふけと梅の花』(新潮社)は一九三〇年、三十二歳のときに出ている。