2020/09/07

惰性の効用

 最近、なんとなく惰性というか低迷していると感じる。後になってふり返ると、そういう時期に次のテーマみたいなものを見つけていることがよくある。

『野間宏と戦後派の作家たち展』(神奈川近代文学館、二〇〇一年)のパンフレットを見ながら、二〇二〇年の今、「戦後派の作家たち」——安部公房、梅崎春生、大岡昇平、椎名麟三、島尾敏雄、武田泰淳、中村真一郎、花田清輝、埴谷雄高、福永武彦、堀田善衞は、どのくらい読まれているのか、と考える。学生時代のわたしは第三の新人と「荒地」の詩人に夢中で戦後派の作品を読む余裕がなかった。第三の新人と「荒地」のあとは私小説や中央線文士を追いかけるようになった。戦後派(第一次・第二次)の本は古書展に行って「今日はあんまりほしい本がないな」とおもったときに、ちょこちょこ買っていた。はじめて梅崎春生を読んだのも三十代に入ってからだとおもう。

 金曜日、昼すぎ、荻窪のささま書店の場所にできた古書ワルツ。本がすこしずつ増え、前に来たときより棚が整っていた。『日本橋絵巻』(三井記念美術館、二〇〇六年)は、日本橋を描いた絵を集めた図録。渓斎英泉の「江戸八景 日本橋の晴嵐」は素晴らしい。あと日本橋と富士山がいっしょに描かれた絵が多い。巻末付近の「現在の日本橋」の写真を見ると悲しくなる。

 レコードで持っているザ・バンドの『カフーツ』のCDを買う。昔レコードで買ったときの五分の一以下の値段。ザ・バンドは中古レコード屋では人気があった。高円寺にZQがあったころは古本ではなく、CDをよくジャケ買いしていた。髭のミュージシャンばかり。髭のミュージシャンが好きになったのはザ・バンドの影響である。令和になっても読んでいる本と聴いている音楽は昭和のままだ。レコードとCDは二十年前に半分以上手放してしまった。残ったものをくりかえし聴いている。Web平凡の山川直人さんの連載『はなうたレコード』を読んでいると中古レコード屋に行きたくなる。

 荻窪から阿佐ケ谷まで青梅街道を歩く。江戸時代には石灰を運んだ道だ。阿佐ケ谷でアーケードの商店街で期間限定の沖縄の物産品店に寄り、一時期、常備していた沖縄そばの濃縮スープを買う。味噌汁にも合う。毎日、同じような料理ばかり作っているが、すこしずつ味やら調理法は変化している。