金曜日、西部古書会館。この日、文学展パンフがいろいろあった。『NHK広島放送センターオープン記念「井伏鱒二の世界」展』(一九九五年)を三百円。ただし鉛筆書き込みあり。
酒、将棋、書画、釣り、旅……。いい人生だなと。
このパンフレットでも『荻窪風土記』(新潮文庫)の「自分にとって大事なことは、人に迷惑のかからないようにしながら、楽な気持で年をとって行くことである」という言葉を引用していた。どうすればそんなふうに年を重ねられるのか。難題。
『荻窪風土記』の「善福寺川」のところを読む。太宰治が井伏鱒二のところに来ていっしょに善福寺川で釣りをした話のあと——。
《大正の末年頃は、ロシア人の羅紗売の行商人をよく見かけたものだ。落語の色物などのかかる牛込演芸館では、ひところ美貌のロシア女が高座に出て、バラライカを弾きながら「カチューシャ可愛や」という艶歌を歌った。ただ、それだけの芸だが、見物人は結構情緒を湧かしていたようだ》
ロシア革命後、日本に亡命したロシア人が羅紗(毛織物)の行商をしていた。大正末だから百年くらい前の話である。当時、ロシアから多くの職人、技術者が日本に逃れてきた。ロシアパンが日本に広まったのもそのころだ。