気温二十三度。寒暖差のせいか体が重い。ロシア・ウクライナ情勢——開戦の直前までいつも通りの日々が続くと考えていた人もいるだろう。ある日突然、日常が崩れる。そうなったらどうしようと考えながら散歩して古本を読む。
河盛好蔵著『人間讀本』(番町書房、一九六六年)に「永代萬年暦」という随筆がある。初出は『風報』一九六一年六月。
京都の古本屋で弘化元年(一八四四)から大正九年(一九二〇)までの暦をまとめた本を買い、自分の生まれた日の曜日、大安か仏滅かなどを調べる。
河盛好蔵は明治三十五年(一九〇三)十月四日生まれ、この日は土曜、大安だった。
それから——。
《私と同世代の諸家では、まず『風報』の編集同人の両尾崎氏は、
尾崎士郎 明治三十一年二月五日 土曜、先負
尾崎一雄 明治三十二年十二月二十五日 月曜、先負
と同じ星である。そのほかでは
井伏鱒二 明治三十一年二月十五日 火曜、先勝
丹羽文雄 明治三十七年十一月二十二日 火曜、赤口
となっている》
わたしも先負で両尾崎氏と同じ星である。尾崎一雄と同じなら文句なしだ。
尾崎士郎と井伏鱒二は生まれ年と月が同じというのは意外だった。
河盛好蔵は日柄の吉凶も説明しているのだが、先負は「午前は凶、午後は吉、物事静かにし、急ぐな」とある。
河盛好蔵著『明るい風』(彌生書房、一九五八年)の「昼寝の季節」も好きな随筆だ。
フランスの劇作家イヴ・ミランドが「あなたの好きなスポーツはなんですか」と訊かれ、「昼寝だ」と答えた逸話を紹介し、自分も「昼寝の大の愛好者である」と綴る。そして——。
《上林暁君が、『風報』という雑誌に、昼寝について書き、昼寝というものは、うとうととうたた寝するときの気持がいいので、さてこれから昼寝をしようと思って蒲団を敷くと、さっきの快感がどこかへ行ってしまうと書いていたが、同感である》
上林暁は一九〇二年十月六日生まれ。月曜、先勝。前掲の「永代萬年暦」によれば、先勝は「諸事急ぐ事や願い事吉、午後は控え目のこと」だそうだ。