2018/07/11

『ビコーズ』の解説

 本日刊行の佐藤正午著『ビコーズ 新装版』(光文社文庫)の解説を書きました。

 私小説ではなく、私小説風というか、主人公と作者の経歴が似ている私小説っぽい仕掛けの作品である(ちょっと混乱している)。わたしは私小説が好きなので、この作品も大好きなのだが、ストーリー以前に文章が心地いい。細部まで作り込まれていて、時代(一九八四年ごろですね)の空気の切り取り方も絶妙で、読んでいるだけで楽しい。

 解説では『ビコーズ』と『放蕩記』の関係について、いろいろ言及しています。

 もともとわたしは五年くらい前に、佐藤正午のエッセイに傾倒し、それから小説を読むようになった。光文社文庫の『象を洗う』を電子書籍で読み、「この先、何度も読み返すだろう」と確信し、すぐ紙の本で買い直した。『ありのすさび』と『豚を盗む』で完全にまいった。

 このブログでも当時のことを書いている。

《毎日、インターネットで注文した古本が届く。届いた本の中には、自分の守備範囲外だった小説家のエッセイ集もある。
 キンドルで一冊だけダウンロードしたら、あまりにも好みの文章で「この二十年くらい何をしていたのか」と呆然としてしまった。
 その作家の名前は知っていたのだが、なぜ今まで手にとらずにきてしまったのか》(二〇一三年五月五日)

『ビコーズ』の執筆事情もいくつかのエッセイで知り、作品に興味を持った。何の予備知識もなく、読んでもおもしろいとおもう(そういう読書体験もしてみたかった)。しかし予備知識がなさすぎて、佐藤正午を知らずに過ごしてきた。直木賞受賞前の話である。