2018/07/21

東海道人種

 神保町、神田伯剌西爾、小諸そば。さすがに暑くて、温かいうどんではなく、から揚げそばのせいろを食う。
 澤口書店の均一で浮世絵体系『東海道五拾三次』と『木曾街道六十九次』(集英社、一九七六年)を買う。

 日本の古本屋で『特別展 広重と北斎 「六十余州名所図絵」と「百人一首姥が絵とき」』(岡山美術館)も購入した。

 武田泰淳著『新・東海道五十三次』(中公文庫)を読んでいたら、「平凡社の世界名画全集の別巻に、近藤市太郎氏の編集解説した『東海道五十三次』がある。これは、保永堂版のほかに、『行書東海道』、『隷書東海道』のような珍しい絵図も並べてあり、近藤氏自身が同行して撮影した最新の道中写真も挿入してあって、便利きわまりない」とある。

『新・東海道五十三次』は、武田百合子が運転手で泰淳はずっと助手席に乗っている。
 車中の会話もおもしろい。戦後派の武田泰淳が、第三の新人について、こんなふうに語っている。

《吉行淳之介さんは、とっくの昔に自動車小説を書いているかもしれないし(せっかく書いたとしても、会社からクルマは貰えなかったに違いないし)。彼はゼン息で痩せほそった美男子ではあるが、あれで運動神経は発達していて運転はうまいらしいなあ。安岡章太郎さんとこは、奥さんが運転してるから、条件はうちと同じだ》

《安岡さんの所でも、奥さんは運転中『あんたのアタマ、邪魔っけよ。そっちへよけてちょうだい』なんて叱っているらしいなあ。遠藤周作さん、彼はうちより高価なクルマを運転していて、しかも立派に交通事故で怪我したらしいぞ》

《ともかく、第三の新人グループは、われら老人を追いあげてくるから苦手だよなあ。もと海軍将校の阿川弘之さん、彼は肉体も精神も強健そのもので、家庭とクルマの権威らしいから、太刀打ちできんしなあ。三浦朱門と曾野綾子の夫妻は、海を越えたブラジルでも縦走か横断か、ともかく走破してきたらしいなあ》

 武田泰淳の『新・東海道五十三次』は何度か読んでいるのだが、この記述はすっかり忘れていた。
 この本で岡本一平が東海道マニアであることを知った。岡本かの子も東海道五十三次のことを書いている。
 結婚が決まり、岡本一平はかの子を連れて東海道旅行をする。静岡では丸子(鞠子)の名物とろろ汁の店に入る。

《かの子が娘から妻になる胸のときめきをおぼえながら、店の主人や一平から教えられたのは、「この東海道には東海道人種という、おもしろい人間がたくさんいる」ことであった》