2018/07/14

くりかえし

 昨日、神保町で打ち合わせ。帰りは東京メトロ半蔵門線、東西線。中野から高円寺まで歩く。
 佐藤正午の作品を読むきっかけになったのは『象を洗う』(光文社文庫)だった。電子書籍ではじめて買ったエッセイ集でもある。
 この本の「自己紹介」では、時間の使い方について書いている。その中で「規律」という言葉が出てくる。

 わたしは大学を中退したあと、いちども定職につかず、フリーライターになった。長年、不規則かつ不安定な生活を送っているうちに、何かしらの規律がないと仕事を続けられないとおもうようになった。

 規律の大切さは、いろいろな作家が語っている。海外の作家の文章読本を読むと「毎日決まった時間に書いたほうがいい」というアドバイスが定番になっている。
 その規律が身になじむのに十年くらいかかった。といっても、不規則な生活をしていたころに考えたり悩んだりしたことが無駄になったわけではない。

 若いころから規則正しい生活を送り、規律が身についていたら、たぶん、大学もどうにか卒業していただろうし、フリーライターにならなかった可能性も高い。

『象を洗う』の「勤勉への道」も好きなエッセイである。同じような内容でも、書き方で印象はずいぶん変わる。それこそ、規律や勤勉について書かれた本は無数にあるが、読んでいるときの共感の度合、身にしみ方はまったくちがう。
 行間に、書き手自身の試行錯誤や自問自答がどれだけ含まれているか。最初から揺るぎない自信のもとに「ちゃんとしろ」といわれると受けつけられない。

 四十代の低迷期、この本に出てくる「生きることの大半はくり返し」という言葉を読んで気が楽になった。
 くりかえしもわるくない。むしろ、いいところもある。自分でも気づかないうちに、くりかえしによって培われているものがある。
 何度くりかえしても直らないこともある。日々反省です。