2018/09/04

18きっぷ紀行(前篇)

 月曜日、朝八時五十分のJR中央線で山梨に行く。青春18きっぷ使い切りの旅。武蔵小金井駅、豊田駅、高尾駅で乗り換えたり、途中下車したりしながら、酒折駅へ。駅を降りると家を出るときに降っていた雨はやんでいた。快晴。
 酒折駅からは歩いて身延線の善光寺駅へ。五月に善光寺に行ったので今回は反対側の住宅地を散策する。善光寺あたりは山梨出身の深沢七郎がおすすめの場所だ。
 途中、立ち食いうどんの店があったのだが、お客さんがいなくて営業しているのかどうかわからなかった。二十分くらい歩いた後、もういちど前を通ると店の中は満員。わざわざ車で来ているお客さんもいた。

 善光寺駅から甲府駅。甲府駅、駅の構内からの景色(山側)が素晴らしい。
 わたしが街道好きになったのは、東京と郷里の三重をつなぐ東海道、それから中山道のことを知りたいとおもったからなのだが、その前から甲府は気になっていた。東京、静岡、長野と三方向に電車が走っている。さらに下諏訪から塩尻に行けば、名古屋、新潟や日本海側にも行ける。交通の要所だ。東海道線ばかり利用していた自分の頭の中の地図の感覚が変わった。

 甲府駅をすこし散歩してから石和温泉駅に行く。山梨は駅前に足湯コーナーがけっこうある。
 駅前のイオンの中華料理屋でラーメンと半チャーハンのセット(お腹が空いていたのだ)。そのあと甲州街道を歩く。本陣跡ちかくの小林公園で休憩する。ここも足湯コーナーがある。
 石和温泉では平等川沿いのホテルを予約していた。当日になるまでどんな部屋になるかわからないという格安プラン。九畳三畳板の間四畳という広い部屋にひとり。屋上露天風呂、大浴場もついている。
 ホテルでごろごろしてから再び甲州街道を歩く。アピタにも寄る。近くの新鮮市場石和もよかった。石和温泉界隈、買物には不自由しなさそう。大きな道路沿いにはチェーン店も多い。あちこちに道順を示す看板があるのも助かる。旅行者が道に迷わないための心づかいを感じる。まっすぐではない道も多く、地図を見ながらでも何度か迷いそうになった。にぎり寿司と酒を買って宿に帰る。某誌の原稿を書くつもりが、温泉宿だとまったく仕事が捗らないことを痛感する。

 甲府市と笛吹市の境あたりの川沿いも歩いていて気持よかった。歩道も整備されている。病院、高齢者の介護付ホームがあちこちにある。前に石和温泉に来たときは春日居駅まで歩いた。井伏鱒二は一宮町のあたりが好きだと語っていた。

 宿に戻り、テレビで地元局の夕方のワイドショーの天気予報を見る。台風接近の影響で火曜日の午後から身延線の一部区間が運航中止になるとニュースに流れる。石和温泉の笛吹川流域は明治に大水害(川の流れが変わった)があった土地であることは深沢七郎の小説で知った。前に石和温泉に行ったときは鵜飼橋と笛吹橋のほうを歩いた。

 今回の旅行では甲府から身延線を途中下車しながら富士駅に出て、まだ行ったことのない東海道の宿場町をすこし歩いて東京に帰る計画を立てていたのだが、予定変更を余儀なくされる。
 夜九時ごろ、ホテルの露天風呂に行ったら客はわたしひとり。貸し切り。星が見える。

 風呂上がり、空腹をおぼえる。もうすこし何か買っておけばよかった。コンビニまでは五分くらい。しかし道が暗くて怖い。

(……続く)