2020/05/16

山口瞳と古山高麗雄

 部屋の掃除。ある本を探している。どこに何が書いてあったか。おもいだしたときにメモをしないとすぐ忘れる。付箋を貼っても忘れる。自分の記憶を過信してはいけない——とおもったこともすぐ忘れてしまう。

 探している本は見つからないが、そのかわりに別のことをおもいだした。
 山口瞳著『天下の美女 男性自身シリーズ』(新潮社)の「貧乏」である。「男性自身」で古山高麗雄が出てくる回はどれだったか——ちゃんとメモしておこうとおもっていたのだ。

 山口瞳は河出書房にいたころの月給は二万五千円。アパート代は一万円で親子三人暮らしだった。厳しい生活だろう。

《こんど『プレオー8の夜明け』という小説で芥川賞を受賞した古山高麗雄さんと、そこで机を並べていたときに、私は古山さんに言った。
「河出書房という全国に名を知られている出版社に勤めていて貧乏しているんだから、これは俺たちの責任じゃねえよなあ。しょうがないよなあ」
 古山さんは、
「そうだよ、そうだよ」
 と言った。古山さんも親子三人で暮らしていた》

 山口瞳と古山高麗雄は河出の元同僚で、お互い、競馬好きでもあった。

《読者および評論家諸氏は『プレオー8の夜明け』という小説の登場人物の名前が、主人公の吉永をはじめとして、ほとんどが競馬関係の、騎手名、調教師名、厩舎名になっていることに気づいているだろうか》

 たまに小説や漫画を読んでいて、登場人物の名前が「何々線の駅名だ」とか「野球選手の名前だ」とかわかると嬉しい。

 読みかけのまま行方不明になった本を一日中探したが見つからなかった。そういう日もある。