2021/12/29

戦力外の話

 二十八日夜、年末恒例——「プロ野球戦力外通告」を観る。今年は番組には三十歳の投手が二人取り上げられていた(その二人以外では楽天を戦力外になった牧田和久投手も)。

 三十歳の選手は二人とも結婚していて子どもがいる。
 彼らは他球団から声がかからなければ、独立リーグに行くか海外でプレーするか現役引退か——そうした岐路に立っている。福岡ソフトバンクホークスの投手は引退し、球団職員の道を選び、今年台湾にいた元阪神タイガースの投手はトライアウトを受けたが期日までにオファーがなく、もう一年頑張ることに決めた。
 引退しても球団の職員、スタッフとして野球に関わる仕事ができるのはかなり恵まれた選手といっていい。

 真面目で練習熱心で試合に出ていないときでも味方の選手を大きな声で応援する。陽気でチームメイトに愛されている。そういう選手は引退後も球団のスタッフとして残ることが多い気がする。あと球団と出身校の関係なども左右することがある(ホークスの球団職員になった選手は福岡県の野球の名門校の出身だ)。逆に自分のことしか考えてなくて、ベンチの雰囲気をギスギスさせてしまうような選手はそこそこの成績を残していても戦力外候補になりやすいし、裏方としても声がかかりにくい。

 選手としては同じくらいの成績だったとしても、日頃の小さな積み重ねによって引退後の明暗は分かれる。

 戦力外になる選手は年齢もそうだが、プロとしての技術面で何らかの課題があるということだ。どんなに球が速くてもノーコンだとか、打撃は光るものがあっても守備がまずいとか、走攻守のセンスはあるけどケガが多いとか……。若いころは「伸びしろ」を期待され、多少の欠点があったとしても試合に出してもらえる。しかし三十歳の選手はそういうわけにはいかない。監督やコーチは同じような課題を抱えている選手であれば、若手に経験を積ませたいと考える。
 育成の期間が過ぎた三十歳前後の中堅の選手は確実性——計算できる選手かどうかが問われてくる。野手の場合でいえば、ゲーム終盤一点差で負けている局面でランナーを確実に送るバッティングもしくはバントができるかどうか。一アウトで三塁ランナーをホームに返すバッティングができるかどうか。レギュラーではない中堅選手であれば、複数のポジションを守れるユーティリティとしての能力も必要になってくる。投手なら四球が少なく三振がとれる——のが理想だが、とにかく簡単には崩れない、粘り強いピッチングができるようにならないと大事な場面を任せてもらえない。

 ベテラン選手になれば、自分の成績だけでなく、チーム全体のことまで考えないといけなくなる。そのときどきのチーム事情に応じ、様々な役割が求められるようになる。苦しいときにチームの士気を高める行動がとれるかどうかも大事な仕事だ。

 三十歳前後で戦力外になる選手は、自分のことで一杯一杯でまわりが見えていない。それからプロで生き残るための貪欲さみたいなものが足りない。

 一年前に戦力外通告を受け、今年台湾の球団にいた選手が妻にトライアウトの結果がダメだったらどうするのか——といったことを問い詰められる。選手は「今は考えられない」と答える。
 プロになるような選手はみんなアマチュア時代は野球の超エリートである。アルバイトなんてしたことがない選手が大半だろう。そういう選手が戦力外になった後、どういう人生を歩むのか……。

 一軍のレギュラーになれる選手は一握りである。そして本人の納得にいく形で引退できる選手はもっと少ない。野球好きとしては、みんな幸せになってくれることを願うばかりだ。