2022/01/11

昆布の薄皮

 六日、雪がつもる。寝起きから二時間くらい頭がまわらず、手先に力が入らない。この日から三日連続で睡眠時間がズレる。朝寝昼起が昼寝夜起になり夜寝朝起に……。一定の周期で睡眠時間が六時間くらいずつ遅れていく時期がくる。小学校の高学年くらいからそういう傾向があった。

 毎年一月下旬から二月初旬ごろ、「冬の底」と呼んでいる気力体力のどん底期を迎えることが多いのだが、昨日(十日)あたりがそんなかんじ……がした。起きてすこし動いてまた寝て起きてすこし動いてほとんど一日中寝ている。昨年の「冬の底」は一月十八日あたり——一週間くらい早いが、誤差の範囲である。

 伊藤比呂美の『たそがれてゆく子さん』(中公文庫)の「不眠」を読んでいたら「頭のシワに、さば寿司にかかっているような昆布の薄皮がぴったり貼りついた気分である」という記述があった。ここ数日のわたしの状態もそうである。不眠ではなく、寝すぎのせいなのだが。

 以前、知り合いの編集者に「(ブログなどに)体調がよくない話は書かないほうがいいよ」とアドバイスしてもらった。仕事を依頼する側からすれば、不調を訴えている人には頼みづらいのだそうだ。まあそうでしょう。「隠居したい」「冬眠したい」みたいなことを書くのも考えものだ。しかし世の中、みんながみんな元気なわけではないのである。調子がよくないなりに、どうにかこうにか生きている人が大半だろう。

 頭が「昆布の薄皮」みたいなものに包まれているような状態のときは、ふだんと時間の流れ方もちがう。台所に行ってコーヒーをいれて飲む。自分の感覚では四、五分の出来事のような気がするのだが、ふと時計を見ると一時間くらい経っている。夕方起きて、ぐだぐだしているうちに、いつの間にか深夜になっている。そんなことがよくある。