ジョージ・ミケシュ(マイクス)の『不機嫌な人のための人生読本』(ダイヤモンド社)の巻頭をかざるエッセイの題は「糖衣錠——良薬は口にも甘し——」。
ミケシュはユダヤ系のハンガリー人でイギリスに亡命した作家である。
ナチス時代のドイツとスターリン時代のソ連の迫害を知る彼は書き方も用心深い。そう簡単に尻尾をつかませない。
「糖衣錠」ではそんな自分の文章技法の種明かしをしている。
《こういった表現方法は、臆病に由来しているのである。(中略)ユーモア作家は——道化師たりとも例外ではないが——、まじめなことをいおうと欲し、必死になるときもあるが、あえてそうしようとはしないのである》
《薬とは、ときににがくあるべきである。しかし、錠剤は甘くすることができるのである》
ミケシュは自身のコラムやエッセイを「糖衣錠」として世に発表することを心がけていた。当然、そんなオブラートに包んだ物言いでは世の中を変えることができないという反論もあるだろう。
かといって、勇ましい直言であれば、世の中を大きく動かすことができるのかといえば、そうとも限らない。
「何を書くか」と同じかそれ以上に「どう書くか」というのはむずかしい問題だ。