2022/02/22

新編 閑な老人

 二月二十二日、尾崎一雄著『新編 閑な老人』(中公文庫)が発売になりました。旧版の『閑な老人』(中公文庫)とは収録作を大きく変え、尾崎一雄が“閑な老人”になるまでの歩みがわかるように編んだ。それから元の『閑の老人』を愛する尾崎一雄ファン(わたしも)に向け、旧版の解説で高井有一が書いている「生存五ヶ年計画」関係の作品も収録した。
 編集方針としては、尾崎一雄の「生きる」と「歩きたい」を軸に短篇、随筆を選んだ。「生きる」を最初にするか最後にするか。「歩きたい」をどこに入れるか。それによって他の作品の並べ方も変わる。
「生きる」は三十代のはじめから数え切れないくらい読み返している。「歩きたい」は五十歳前後に再読し、もっとも感銘を受けた作品だ。
 カフェ昔日の客の関口直人さんに教えてもらった「狸の説」という小説も収録した。山王書房の関口良雄さんがモデルの古本屋さんが登場する。

 病苦や貧困に陥るもそこから日常の小さな喜びを見いだす。尾崎一雄の小説はだいたいそういう話である。
 大小様々な困難に直面するたびにわたしは尾崎一雄を読む。読んで問題がすぐに解決するわけではない。でも心構えみたいなものは学べる。

《私の中に自動制御器のようなものが取りつけられたのは、敗戦前後の長患いを経てからである。その器械の働きによって、私はあらゆる面で、やりすぎ、エクセスというものと縁が遠くなった》(「上高地行」/『新編 閑な老人』)

 エクセスは過剰、超過の意。四十代半ば以降、尾崎一雄は無理をしないことに徹した。若い人にも読んでほしいが、すこし退屈かもしれない。
 わたしは生老病死についてまだ今ほど切実ではなかったころ、尾崎一雄を読み、わからないことがたくさんあった。年をとるつれ、すこしずつわかってくる。そういう読書の楽しみ方もある。
 文学でも音楽でも絵でも何でもいい。何かを表現し、あがいている人には本書収録の「気の弱さ、強さ」を読んでほしい。たぶん得るものがあるだろう。

 (追記)二〇二二年二月二十二日午前二時二分に公開しようと準備していたら寝てしまった。午後二時二十二分に公開した。