毎年恒例の一月半ばから二月はじめの間の体がおもうように動かなくなる時期を「冬の底」と名づけて幾星霜。今年は一月十日だったかもしれない(まだわからない)。睡眠時間がズレる。寝ても寝ても眠い。頭が回らない。指に力が入らない。昼すぎに寝て夜八時くらいに起きて、二、三十分過ぎたかなと時計を見ると、二、三時間過ぎている——脳内の時計がヘンな感じになるのも「冬の底」の症状のひとつだ。ずっと継続していた日課の散歩(一日五千歩以上)の記録も途絶えてしまった。また明日から歩こう。
四十代以降、貼るカイロのおかげでかなり楽になった。簡単には比較することはできないが、ほんとうに何もできなくなるほどつらい人からすれば、カイロ一枚で改善してしまうわたしの症状は軽度なのだろう。
若いころのほうが心身ともにきつかった。今より元気な分、落差が激しかったせいもあるだろう。部屋そのものが古い木造のアパートで寒かった。冬の朝方、室温が十度以下になることもしょっちゅうあった。
今は天気のせいと割り切り、余計なことを考えないよう心がけている。部屋をあたたかく保ち、あたたかいものを食う。そして自分のエネルギーのすべてを回復につかうのだ……とイメージしながらゆっくり休む。ようするに怠けている。
《朝起きて、昼寝をして、宵寝をして、深夜あるいは明方にまた寝たりすることがある。朝酒を飲んで、一寝入りして、また酒を飲んで、また一寝入りする。そういう日もある》
《ろくに物も考えず、ぐうたらぐうたら時を過ごしたような気がする》
——「日常」/古山高麗雄著『二十三の戦争短編小説』文春文庫。初出は『別冊文藝春秋』一九九一年夏号。古山さん、七十歳、まもなく七十一歳になるころに書いた作品である。古山さんも寒さが苦手だった。初出は夏号だけど、冬がくるたびに読みたくなる。