南陀楼綾繁さんとコクテイルとペリカン時代で飲む。
そのときにもすこし話題になったのだが、高円寺文庫センターが十二月二十五日で閉店することになった(わたしは来年一月に閉店と聞いていたので、南陀楼さんにもそういってしまったのだが)。
一九八九年の秋から高円寺に住んでいる。当時は毎日のように深夜に文庫センターで雑誌と漫画をチェックしてから家に帰った。
前の店舗だったころは、友達や編集者との待ち合わせ場所としてもよく利用していた。
かなり偏った品ぞろえだったが、「自分たちはこういう本を売りたいんだ」という気迫が伝わってくる棚だった。
同業の知人は「高円寺文庫センターのような店が日本に百軒くらいあったら、アルバイトをしなくても食っていけるようになるのになあ」とよくいっていた。
今年から店の半分が、古本の棚になり、知り合いの古本屋さんもかかわっていたので、あまり経営がおもわしくないという話はちらほら聞いていた。
いつかその日がくることは、あるていど覚悟はしていた。
かつての文庫センターのあった場所は、その後、スマイルベーカリーというパン屋になり、今はオシャレな飲み屋になっている。
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先日、上京していた東賢次郎さんの『レフトオーバー・スクラップ』(ふぉとん叢書・冬花社)が届く。
夢をモチーフにした連作短篇。ストーリーうんぬんではなく、とにかく文章がしみこんでくる。
はじめてこの小説を読んだのが、ペリカン時代のカウンターだったので、いろいろな意味で酔った。
《三十七歳になった月の末日で東京での仕事を辞め、その日の夕方には京都にきてそのまま住み始めて以来働いたことはなく、退屈したことも一度もないが、蓄えは減っていく一方なので、きりつめた生活の先に不安がないかといえばもちろんないはずはない。それで日々何をしているのかといわれると、好きな音楽をときどき人前で演奏している、というぐらいのことしかしていない》(ないないづくし——あとがき)
上京中の東さんと五日連続で飲んだ。
京都での生活の話は、そのまま小説になるのではないかとおもえた。
同じ日、山川直人さんの『澄江堂主人』(前篇・エンターブレイン)も届いた。
芥川龍之介や佐藤春夫が漫画家という設定で、画家で装丁家の小穴隆一も出てくる。「田端文士村」は「田端漫画家村」になっている。
当時の作家(設定では漫画家だけど)群像だけでなく、大正から昭和初期の時代の雰囲気が、ものすごく緻密に描かれているから、一コマ一コマゆっくり読みたくなる。
《「遺伝」「境遇」「偶然」
「我々の運命を司るものは畢竟この三者である」》
全三巻の予定らしい。完結したらまちがいなく大きな漫画賞を受賞するとおもう。