2014/01/18

フライの雑誌

『小説すばる』2月号の特集「はじめての東京暮らし」で「今住むなら、この古書店街だ!」という記事で「谷根千」「おに吉」「わめぞ」を紹介しました。
 今、自分が上京したら、どこに住みたいかと考えたら、その界隈かなと。
 下北沢を入れるかどうかは最後まで迷った。

 昨晩はフライの雑誌社の堀内正徳さんと高円寺で飲んだ。『葛西善蔵と釣りがしたい』を読んで、同世代で高円寺・阿佐ケ谷界隈にいたこともある人ということは知っていた。
 堀内さんからフライフィッシングの話をいろいろ伺った。「この人はフライフィッシングの世界における手塚治虫のような人です」といった説明がおもしろかった。

『フライの雑誌』は100号まで出ていて、100号の特集は「フラット・グリップ・レボリューション」である。

 フライは毛鉤。フライフィッシングは毛鉤を使った釣りのこと。
 同誌の樋渡忠一の「頭がフライフィッシング!」を読んで、その奥深さを垣間見た。おそろしい趣味だ。もはや趣味といっていいのかすらわからない。

《私はフライフィッシングを始めるまでは、休日は身体を休めたり身の回りのことをする日であったが、フライフィッシングを始めてからは、休日どころか24時間、365日フライフィッシングのことを考えるようになった》

 車、住まい、ファッションもフライフィッシングが中心になり、観光旅行もせず、行き先で釣りができるかを重視するようになる。

《フライフィッシングにのめりこんだ多くのフライフィッシャーは血液型にA型やB型等の他にFF型があるように感じたり、DNAのA、G、C、T以外に、FFという塩基があるのではないかと思ってしまうほど、頭の先からつま先まで、体中全てがフライフィッシングになってしまう》

 これがあれば、それさえあれば生きていける——。わたしはそうした気迫と覚悟に満ちた人たちの文章を読むのが好きだ。
『フライの雑誌』は、そういう文章だらけの雑誌なのである。

 堀内さん自身は、そっちの世界にはまりこみすぎてしまうと雑誌を出せなくなるからちゃんとブレーキを踏んでいる……というようなことをいっていた。「自分はふつう」とおもっているおかしな人だった。