フライの雑誌社の新刊、牧浩之著『山と河が僕の仕事場』が届く。明け方、読みはじめ、おもしろくて眠れなくなる。
牧さんは職業猟師+西洋毛鉤釣り職人。一九七七年神奈川県川崎市生まれ。
大学卒業後、就職せずにバーテンダーのアルバイトをしながら釣り三昧の日々。あるとき、インターネットで自作の毛鉤を出品したら、おもいのほか高値で売れた。「どうせやるなら、中途半端なことはしたくない。」とフライ製作販売に専念する。
海外ではプロタイヤー(毛鉤を巻いて商売している人)の毛鉤を買う人も多いが、日本では、自分でフライを巻くのが主流——しかし、牧さんは「他と同じことをやってちゃ意味がない」と海釣り用のフライの品揃えを充実させる。
《渓流に何年、何十年と通うベテランでも、きっと海は初心者だから、フライは完成品を買いたいという人がいるはず》
その後、結婚し、妻の実家の宮崎県高原町に移住、毛鉤職人兼猟師になる。シカの毛が、毛鉤の材料として使えることを知り、猟師もやることにした。最初は猟師の道具は何を揃えたらいいのかもわからない。
やがて釣りの経験と狩りの経験がつながる。
好きなことを仕事にする。「自分には無理」とおもうか「どうなるかわからないけど、やれるかも」とおもうか——それが最初の分かれ道だろう。はじめはわからないことばかりでも、続けていくうちにいろいろな人と出会い、知識や技術が身についてきて、すこしずつその先の道が見えてくる。
釣りにかぎった話ではないが、(たいていの)マニアの人は生き方が限定されている。限定されている分、選択肢が少ない。まわりからどんなに「無理」だとおもわれても、ほとんどの選択肢が「無理」なのだから、好きなことなら「無理」を承知でやるしかない。
そんなことを考えたり、おもいだしたりした。いい本だ。
(追記)
刊行日は十二月十五日。現在、予約受付中。