三月十一日の日曜日、「神水会」(神保町で水曜日にお茶を飲む会の略)のメンバーである岡崎武志さん、毎日新聞のKさんと一泊二日で箱根に行ってきた。
現地集合だったため、新宿からスーパーはこねに乗って箱根湯本まで、それから箱根登山鉄道で強羅へ向ったのだが、車内は韓国人と中国人(香港人かもしれない)のツアー客が占拠していて、日本語を話す人がまったく乗っていない。
箱根の強羅に到着してからすこし時間があったので、ふらふら歩きまわっていたのだがどうやって時間を潰していいのかわからず、途方にくれる。当り前だけど、新刊書店も古本屋もない。
入場料五百円払って、強羅公園というところに行ってみたのだが、どうなんだろう。箱根まで来て、熱帯植物園でブーゲンビリアを見るというのは。しかも公園内はカップルと家族連ればかりで、ベンチに座って文庫本を読んでいたら、三組のカップルから「すみません、写真撮ってくれますか」と声をかけられ、悲しい気持になる。
行かなかったけど、ほかにもなぜか「星の王子さまミュージアム」といった“箱根らしさ”をまったく感じることのできない施設がやたら目についた。
そんなものを建設する金があるなら、ゆっくりくつろげる喫茶店と地元の酒を出してくれる飲み屋をいっぱい作ったほうが、よっぽど人を呼べるのではないかとおもう。
なぜ箱根で『星の王子さま』なのか。まだ獅子文六の『箱根山』ミュージアムならわかるのだが……。
ちなみに『箱根山』(新潮文庫)は、昭和三十年代、小田急(東急)と西武による「箱根山戦争」という観光戦争を描いた小説だ。当時、東急会長の五島慶太と西武の堤康次郎が箱根の観光ルートをめぐって、泥沼の争いをくりひろげていた。そのミュージアムには、お互いの会社のバス停の標識を投げあったり、箱根のゴルフ場やホテルの建設を妨害しあったりする社員たちのろう人形などが展示してある。
誰も見にこないか。
でも箱根はひとり旅には不向きな場所であることをつくづくおもいしらされた。
しかたなく、旅館から歩いて十五分くらいのところにあるコンビニでサントリーの角のミニボトルと南アルプスの天然水を買って、昼の三時からひとりで酒を飲んでいた。
そのうちKさんと岡崎さんがやってきた。
これからの日本の出版のことや森進一の「おふくろさん」問題について語り合っているうちに夕飯の時間になり、そのあとすこし飲んで、すぐ寝る。
わたしは夜中の三時頃に目がさめてしまい、旅館のロビーにあった萩尾望都の漫画を五冊くらい読んだ。『スター・レッド』(小学館文庫)はおもしろかった。
七時半に朝食。Kさんは名古屋に出張、岡崎さんは昼から仕事ということで、そのまま解散。
わたしも岡崎さんといっしょに帰ることにした。
今回のいちばんの旅に思い出は、箱根登山鉄道だろうか。スイッチバック方式に電車とはおもえない急カーブの連続。しかも帰りは貸し切り状態だった。岡崎さんは運転席の真後ろの席を陣取って微動だにしない。
途中、小田原あたりをすこしぶらぶらしようかというような話もしていたのだが、箱根湯本駅に着いたら、ちょうど新宿行のロマンスカーが止まっていたので、それに乗り込んだ。岡崎さんに車内販売のコーヒーをごちそうになって、古本の話をしているうちに、午前十時すぎには新宿駅に着いてしまった。
知人に「箱根ってなにをするところなの?」と聞いてみたら、「とりあえず、山に登って、あとゴルフしたり、テニスしたりすればいいんだよ」といわれる。
そうだったのか。