『フライの雑誌』の最新号(120号)が届く。ここ数日、今後の仕事のことを考え不安になっていたのだが、川の写真に癒される。この号の特集は「大物ねらい」と「地元新発見!」でいつも以上に密度が濃い。ものを作る、趣味を愉しむ。その「初心」に溢れている。頭脳警察の映画の広告が載っている釣り雑誌というのもおそらく前代未聞だろう。
わたしもこの号に「釣れん文士 山口瞳」という随筆を書いた。でも本物の釣り好きの書くものにはかなわない。毎回敗北感を味わう。そういう感覚が味わえる雑誌に書けることは物書き冥利なのだけど、悔しい。
ジョン・マント・ジュニアの「戦争と釣り人」(日本語訳・東知憲)が素晴らしかった。もともと二〇〇二年秋に発行されたアメリカのフライフィッシングの博物館の機関誌に発表されたものだという。
戦争あるいは苦難の時代の中、釣りに耽っていた人たちがいる。当然、葛藤がある。釣り以外の趣味にも通じる普遍性のある葛藤だ。
このレポートには釣り好きで知られるアメリカの政治家ヘンリー・ヴァン・ダイクの名前がたびたび登場する。彼は第一次大戦中の戦火の中でも釣りをしていた。釣りに関する著書も残している。
ヘンリー・ヴァン・ダイクが当時の戦場を回顧する言葉が身にしみる。
《——マルヌ川やマース川で、激しい砲火が周りで炸裂しているとき、岸辺でじっくりと釣りをする兵士がいた。彼によると、普通の人間には神経への負担と集団的な狂気から身を守るための、リラックスと気晴らしが必要なのだ。——》
真柄慎一さんの「親孝行」を読み、自分の父のことをおもいだした。真柄さんはなかなか書かないのだけど、書くものすべて傑作だ。わたしは生前の父に何もできなかった。子どもの役割は元気で楽しく生きていることだ——と開き直っている。子どもといっても中年のおっさんなわけだが。
「サバイバルです FM 桐生『You've got Kiryu!』から」(島崎憲司郎&山田二郎)は名言だらけ。生き残ることか。ほんとうにそうだなとおもう。