2017/10/14

政治家がしてはならないこと

 ジョージ・マイクス著『偽善の季節 豊かさにどう耐えるか』(加藤秀俊訳、ダイヤモンド社、一九七二年刊)という本がある。ジョージ・ミケシュは、ジョージ・マイクス名義になっている本が何冊かあって、ややこしい。わたしはミケシュで通す。
 この本で、ミケシュは「政治家であるかぎり、してはならないことのいくつか」をあげている。

(1)「すみませんでした」ということばをけっして口にしてはならない。
(2)いったん決めたことは、変えてはならない。
(3)選挙に失敗してはならない。

 ミケシュは「およそ歴史というものは、長い間にわたる数えきれない多くの政治的失敗の連続である」という。だが、政治家は謝罪しない。
 その例として、オーストラリアの国務大臣だったデビッド・セシルが、野党から攻撃を受けたときの答弁を紹介している。

《あなたがたの質問のすべてに対して、わたしは完全な答えを用意しております。しかし残念なことに書類を紛失してしまったので、このさいどうお答えしてよいかわかりません》

 また「いったん決めたことは、変えては変えてはならない」にたいして、ミケシュはこんな感想をいう。

《もしも議席に立ち上がって「わたしはこの問題に関してわたしの政敵のおっしゃっていることはまったく正しく、われわれがまちがっていることがよくわかったからであります」などと述べることのできる国会議員がいたとしたら、わたしはただただ敬服し、そういう人物を深く愛するのみである。いうまでもないことだが、こういう人物が現われることは絶対ありえない》

 選挙に失敗しない方法はいくらでもある。仮に、選挙で惨敗したとしても「自分は自分の言いたいことを全部演説で述べた」と開き直ればいい。「自分が考えていたよりはるかに多い得票数であったといえば、これも勝利である」とも……。
 日常生活と政治における美徳は一致しない。

 長いあいだ、わたしは政治に無関心だったが、ミケシュのコラムによって、政治家の生態を研究するおもしろさを知った。彼らにできないことを期待するのではなく、できることだけを望む。そのくらいのスタンスでいいのではないかとおもうようになった。