2017/10/04

アメリカの鏡・日本(二)

 日本は近代の一歩目から「危機の時代」にいた。ゆっくり近代化することが許されない状況だった。ヘレン・ミアーズは、日本の「悪条件」を同情している。

 ヘレン・ミアーズは、日本にたいする批判を「鏡」で反射させるかのように、アメリカに向ける。マッカーサーが日本語版の刊行を禁止するのもわかる。ものすごい「毒」をはらんだ危険な本なのだ。わたしはアメリカの文学やコラム、音楽が好きだ。日本人の平均以上に「親米」かもしれない。そんなわたしですら「アメリカ許すまじ!」と憎悪を抱きかねないような「正直な記述」が頻出する。

 当時、日本の支配下だった南洋の島の話。
 現地の日本人と朝鮮人は、島の住民と結婚し、いっしょに働き、本土とも盛んに貿易していた。
 彼らは、島民を肌の色で差別することはなかった。島民は、安価な値段で衣類や日用品を購入することができた。島の子どもたちは、朝八時から十一時まで学校に行くことを義務づけた。
 日本人は、魚の養殖や農業技術を島民に教えた。それまで富を独占していた上流階級の島民には恨まれていたが、それ以外の島民との関係は良好だった。

 アメリカが支配していた南洋の島よりも、日本の支配下の島民ははるかに自由だった。アメリカの支配していた島は「白人」と「それ以外」という厳然たる「差別」があった。白人と原住民の学校を区別した。英語以外の言葉を禁じ、若い海軍行政官は、現地人の辞書を焼いた。

 敗戦後、アメリカ人はその島の新たな統治者になった。アメリカ人は「日本人と朝鮮人(島で生まれ、現地人と結婚した日本人まで)」を島から追い出し、日本語を禁じ、円を取り上げ、英語とドルに変えた。日本との貿易を禁じた。
 仕事を失った島民は、米軍施設での日雇いか、軍の売店の土産作りしか経済活動ができなくなった。
 ヘレン・ミアーズは、アメリカは島民に「災い」しかもたらしていないと批判する。
 アメリカにとって、それらの島は、海軍の補給所、戦略基地以外の利用価値がなかったのである。

《この事実は、占領国日本との関係で考えると、新たな重要性を帯びてくる。なぜなら、日本人もアジア人もこの事実を知っているからだ。私たちは日本人を「再教育」して、私たちの理想を実践させようとしている。しかし、私たち自身がその理想を実践してみなければ、再教育はむずかしい》

(……続く)