鈴鹿にかぎった話ではないが、地方というのは車社会である。わたしのように車の免許を持っていない成人はかなり少ない。とくに男は。
六年前に父が亡くなって以来、帰省すると町をよく歩くようになった。町は駅のまわりではなく、県道や国道沿いがにぎわっている。歩いている人は少ないが。
近鉄の平田町駅からすぐ南の県道54号線(鈴鹿中央通り)の一駅分くらいの区間には松屋、はま寿司、スパゲッチハウスボルカノ、あみやき亭、スターバックス(ケーズデンキ鈴鹿店)、丸源ラーメン、快活CLUB、かつや、サイゼリア、吉野家、支留比亜珈琲店、マクドナルド、かっぱ寿司などがあり、そのすこし先にコメダ珈琲店もある。
ちょっとしたチェーン店街である。車だとあっという間だが、歩くと二十分くらいかかる。
ぎゅーとらラブリー、鈴鹿ハンター、マックスバリュなどの商業施設、宿泊施設、衣料品店、リサイクルショップ、キャンプ用品店、スポーツ用品店、自動車用品店なども鈴鹿中央通り沿いにある。
高円寺に三十三年暮らしているが、靴下、下着、タオルなどは地方のスーパーの衣料品店で買うことが多い。東京より安くて丈夫なものが入手できる。
街道歩きをしていてもスーパー+衣料品の商業施設があるとよく立ち寄る。
東海道関連の本でJR関西本線の周辺を歩いた人が「駅のまわりに何もない」と書いたものをたまに見かける。鈴鹿市内は近鉄の駅周辺のほうが人口密度が高く、県道沿いに店が集中している。鈴鹿は人口十九万人の市(山梨県の甲府市、東京の三鷹市と同じくらい)である。
わたしも鉄道旅行が中心なので(鈴鹿市以外の)地方の町のロードサイド文化に疎い。
生まれた町のもより駅から数分のところに旭化成、鐘紡、本田技研の工場があった。鐘紡は今はなく、その跡地にイオンモール鈴鹿(当初は「ベルシティ」という名前だった)ができた。休日に行ったら都内のターミナル駅くらい混雑していた。
本田技研と旭化成の間の坂道をのぼった先に鈴鹿サーキットがある。その周辺には自動車の部品を作る小さな工場が無数にあり、父は自動車関係のプレス工場で働いていた。
伊勢鉄道沿いには味の素(AGF鈴鹿)もあり、隣にAGF陸上競技場、野球場がある。近辺に石垣池、浄土池、祓川池……地図を見ると、今さらながら池の多い町だったことに気づく。中学生のとき、釣りが好きな友人と名前のわからない謎の池に行った。友人はブラックバスが釣れるといっていたが、そのときは何も釣れなかった。
(……続く)