三十歳以降、漫画をあまり買わなくなった。映画を観なくなった。それからインタビューや対談や座談会の構成の仕事をやめた。
あれもこれもと手をひろげてしまうと、どうしてもひとつひとつのことが薄くなる。
そのころ、アパートの立退きになって、「このまま高円寺に住み続けるか、もっと蔵書を増やすために郊外に引っ越すか」で迷っていた。
当時のわたしは昔の学生寮の二階を三部屋丸ごと借りていた。本もレコードも置き場所を気にせずに買うことができた。
高円寺内で引っ越すとなると、広い部屋には住めない。
かなり頑張っても2Kか2DKが限度だろう。
だったら、その居住スペースを前提とした生き方をするしかない。
上京以来、年に四桁(冊数)ペースで本を買ってきた。当然、そんな買い方をしていたら、あっという間に置き場所がなくなる。本棚から溢れた分はどんどん売る。
場所をとる大判の本、巻数の多い漫画は買わない。SF、ミステリ、時代小説には手を出さない。
CDやレコードもくりかえし聴くもの以外、売ってしまった。
そのころ、漠然とだけど、半隠居がしたいとおもっていた。
不安定な生活に関してはそれなりに免疫がある。だったら、あまりお金をつかわず、なるべくやりたい仕事だけしよう。
三十代はそのための試行錯誤に費やした。
しかし「こうしよう」とおもっても「そのとおりにならない」ことが多い。
十年かかって、ようやくそれがわかった。