2007/01/23

 毎日のように酒を飲んでいるわけだが、いつごろから酒についてかんがえなくなったのか。飲み屋に行って酒を注文するとき、ウイスキーがあればウイスキー、なければ焼酎、銘柄なんでもよし、人の家では出された酒はなんでも飲む。いつの間にかそんなふうになってしまった。
 どこそこのなんたらという地酒がうまいだ、幻の焼酎だ、ワインの何年ものだ、そういう知識がまったくない。

 一九八〇年ごろの久保田二郎のコラムを読んでいたら、アメリカのビールでいえば、「バドワイザー」と「シュリッツ」とか、ドイツなら「ホルステン」と「ヘニンガー」と「ローエンブロイ」とか、そんなことが書いてあった。
 ほかにも「ジャック・ダニエルズ」はバーボンではなく、テネシー・ウイスキーと呼んでいただきたいといった軽い啓蒙がちょっと新鮮だった。まだそういう知識が世の中にそんなに普及していなくて、当時は雑文のネタになったのだなあと。今なら飲み屋で、そういうことをいうと笑われるということを教えなくてはいけない。

(……以下、『古本暮らし』晶文社所収)

2007/01/10

お金と時間

 電車賃がもったいないから一駅歩く。電車で三分、徒歩十五分。電車に乗れば、時間を節約できるが、歩けば足が鍛えられる。しかし寄り道して、疲れて、喫茶店にはいると、電車賃よりもお金がかかる。
 長い人生、どっちが得かわからない。

 近所のスーパーなら百五十円の牛乳が、コンビニだと二百円する。もちろんわたしはスーパーで買う。
 これもいろいろな考え方があって、スーパーで買うと、レジで並ぶ時間やら、そこまでの往復時間がコンビニよりもかかる。
 たとえば、スーパーだとコンビニで買うより二十分くらい余計に時間が必要だとする。
 時給九百円の人にとって、二十分は三百円である。二十分かけて五十円安く牛乳を買うと、その分の時給を考えると、マイナス二百五十円という計算になる。なんだかヘンな計算だが、忙しくてすこし休みをとりたい人なら、三百円安く買うよりも、二十分横になっていたいとおもう人がいてもおかしくない。

(……以下、『古本暮らし』晶文社所収)

2007/01/05

成長するってこと

 年末年始は京都ですごした。
 行き帰りの電車、立ち寄った喫茶店などで色川武大の『うらおもて人生録』(新潮文庫)を読み返す。この本、年に一回は読みたい。それもたっぷり時間をかけて。

 長所と短所はコインのうらおもてのようなもので、短所を直せば、長所が弱まる。忘れてたよ。この数年、自分の短所をあらためることに拘泥していた。その行為は無駄ではなかったとおもいたいが、おもうようにはいかなかった。
 丸くなる。角がとれる。円熟、あるいは成熟への道なのかもしれないが、それは凡庸への道でもある。
 長距離走者と短距離走者が鍛える筋肉がちがうように、何をするにせよ、あれもこれもというわけにはいかない。

 しっかりしなきゃとはおもう。でもそれだけではない。なにかを得れば、なにかを失う。得ることばかり考えると、中途半端になる。ほんとうに単純な原理だ。
 就職経験がなく、社会のルールというものがよくわからない。

(……以下、『古本暮らし』晶文社所収)