2012/02/27

コクテイルのトークショー

……二十六日(日)、古本酒場コクテイルの二階で岡崎武志さんとトークショーは無事終了。

 前の日、心配でよく眠れなかったのだが、当日、ルノアールで打ち合わせしているうちに緊張がほぐれた。
 酒を飲んでいないのにいつもよりたくさん喋った。内容があったかどうかは自信がない。
 フリーライターになる前の話(高校時代の級友のお兄さんがプロの漫画家と知って刺激を受けたこと)は話しているうちに、どんどん記憶が甦ってきた。その友人の家の様子やいっしょにホラービデオを観たことなども思い出した。

 岡崎さんは(自分たちの時代は)情報が乏しくて、事前に仕事の厳しさをあまり知らなかったことが幸いしたのではないかというようなことを語っていた。これはほんとうに同感である。
「やってみなければわからない」というのは無責任かもしれないが、どんな仕事にもそういう部分がある。

 かけだしのライター時代、役に立ったアドバイス(怒られたこと)は次の三つ。

・寝癖をなおせ
・破れた服を着るな
・眼鏡を拭け

 あと自分の経験では、自信のない仕事を「できない」といって断るより、「できる」といって失敗したほうが、得るものが多かったとおもう。
「できない」といって断ったら、二度と依頼されない。まだ失敗した場合のほうが、再挑戦の機会をもらえる可能性が高い。

 とはいえ、何でもかんでも「できる」といえばいいわけではない。
 その匙かげんは、それなりに失敗して痛いおもいをしないとなかなかわからない。

2012/02/23

郡山にて

……おとのわ終了後、打ち上げに顔を出す。それから近くで飲んでいた古本酒場コクテイルの常連のS君と合流し、この日もつるまきに宿泊する。

 翌日、S君と火星の庭に寄る。このあとレンタカーで宮城の沿岸部をまわるというS君と別かれて、わたしは郡山に行く。

 郡山は三年八ヶ月ぶり。町の雰囲気はあまり変わっていない気がした。
 駅ちかくのビジネスホテルに荷物を置いて(部屋番号は「311」。おとのわに出演していた小野一穂さんが二日前に泊った部屋と同じかも)、ひさしぶりにてんとうふの本店に行く。ダンボール一箱分くらい古本を買う。

 郡山の町をぶらぶら歩いていると、そこにいると何の問題もないような気がしてくる。
 地元のテレビを見ていたら、「復興」「風評被害に負けるな」というフレーズを何度も聞いた。その頻度は東京の比ではない。

 今の心境を述べれば、原発事故の影響を「たいしたことない」とおもいたくなってきている。たぶん安全バイアスの一種だろう。
 仕事がたてこんでくると、世の中のことにまで気が回らなくなる。気力と体力を消耗したくないおもいから、あたりさわりのないことしかいわなくなる。
 小心と保身をなんとかしないと、どんどんつまらない人間になる。
(この件については、時間ができたら、もうすこし掘り下げてみたい)

 夜はTHE LAST WALTZという店で東京ローカル・ホンクのワンマン。店に入ったとたん、いい音でザ・バンドの曲がかかっている。
 前日のおとのわの打ち上げでも同じテーブルだったテリーさんとホンクのライブを見る。
『さよならカーゴカルト』収録の複雑な構成の曲をきっちりした演奏するかとおもえば、変幻自在というか遊びもあって、毎回おもうことだが、すごいものを見ているな、と。

 店の雰囲気もよくて、料理もうまくて、ライブのない日にも飲みに行きたいとおもった。

2012/02/22

おとのわ

……土曜日の夜、仙台に行ってきた。一目散に壱弐参(いろは)横丁の鉄塔文庫に向う。南陀楼綾繁さんやわめぞメンバーがすでに飲んでいて、仙台にいる気がまったくしない。
 一杯目だけハイボールで、あとは日本酒(乾坤一)。仙台に来ると飲んでばっかりであっという間に時間がすぎる。一日の半分くらい酔っぱらっているかんじだ。

 この日はごはん屋つるまきに宿泊する。
 昼に起きたら南陀楼さんも家主の若生さんもいなかった。
 歩いて“おとのわ”の会場のRensaに向う。
 出演者は、ICHI、レイチェル・ダッド、テニスコーツ、yumbo、小野一穂、タテタカコ、東京ローカル・ホンク、曽我部恵一、友部正人。

 六時間以上の長丁場にもかかわらず、終始リラックスして楽しく聴けた。テニスコーツとyumbo、友部さんとホンクの共演もあって、ファンにはたまらないステージだ。
 今回のイベントの収益の半分は「せんだいコミュニティカフェ準備室」の設立資金、もう半分は母子週末保養プロジェクト「ちいさなたび Japan」(http://chiitabi.com/)に寄付されることになっている。

 原発事故の汚染が深刻な場所にいても、様々な事情のために避難移住できない母子のために汚染程度の低い宮城県内で合宿しながら、心身の保養を助けるというのが、このプロジェクトの目的である。

 専門家であっても危険か安全か意見が分かれている。その地域その地域の深刻さの度合もわからない。
 火星の庭の前野さんから「ちいさなたび Japan」の趣旨を聞いたとき、(おそらく)潤沢とはいえない予算や人員で実行できることなのかと半信半疑だった。
 でもどんな形であっても、心配を分かち合ったり、情報交換したりする場を作ることは必要だとおもっている。

 今、自分が考えていることもつらつら書いてみたのだが、うまくまとまらない。
 睡魔が、、、
 
(……続く)

2012/02/14

おせっかい主義

《現代文明が騒々しいというのは、一つには我々の方で自分自身と向き合って時間を過すことが稀になり、それが習い性になって、偶にそういう時間が出来ると、何とでもしてこれを避けたがる癖が附いたからだということもある》(「ここ」/吉田健一著『甘酸っぱい味』ちくま学芸文庫)

『甘酸っぱい味』の元本は一九五七年に新潮社から出ている。甘いことも辛いことも混ぜて書くつもりで「甘辛」という題を考えていたが、「甘酸っぱい味」に変えた。
 吉田健一のエッセイ集の中でも、一、二のおもしろさなのだが、いかんせん、『甘酸っぱい味』という題は伝わりにくい。わたしも読む前は料理エッセイかなとおもっていた。

 この何年か、一九五五年から一九六五年にかけての評論家のエッセイをよく読む。
 だいたい戦後十年から二十年目くらい、評論家がまだ「文士」といわれていた時代である。
 彼らは世の中を頭で分析するのではなく、からだを通した言葉で世界と向き合っていた。

(……以下、『閑な読書人』晶文社所収)

2012/02/11

三十五歳を過ぎてから

《三十五歳を過ぎてから、私は深い関心を持てぬ事柄を、努力して理解し吸収しようと試みることは一切やらぬことにした。結局、そういう努力は無駄骨で、頭の中に知識として残ったとしても、細胞の中を素通りしてどんどん躯の外へ出てしまうことが分かったからである。短い人生である。あまり無駄なことをしている暇はない》(「些細なこと」/吉行淳之介著『なんのせいか』大光社)

 あるとき、吉行淳之介はコミュニストの旧友に「君はもっと世界における日本の位置というようなことに考えをめぐらさなければ、文学者としてダメである」とエドガー・スノーと何人かの著作をすすめられる。
 でも読まなかった。
 その理由を述べたのが上記の文章である。

(……以下、『閑な読書人』晶文社所収)

2012/02/08

第4回古本フェス

第4回古本フェス@トリペル 〜本読んでたら、四季ひとめぐり〜

日時:2月17日(金)〜26日(日)、12時〜20時、会期中無休
場所:マンガ・古本カフェ・トリペル
〒602−0019 京都市上京区下木下町183−6

出店者(敬称略)

第1部 17日(金)〜21日(火)
古本徘徊堂  福岡・中央区は大名の古本屋さん、人文系から雑誌まで、幅広く漏らさず楽しめるる品揃え。ときめく古本に出逢えるお店です。

古書城田 福岡は北九州・小倉の古本屋さん。ベテランの眼力が光ります。

本の会  京都の、本好き5人組。本のイベントなども今後目論んでおられるそう。古本5重奏。

M堂   大阪の古本通といえば、この方。日本文学を中心に。

風博士  マイホームツアーを終え、ついに定住へ!?古本好きミュージシャンといえば、この方。

本の森  大阪より、フリー編集者、古本研究家の高橋輝次さん。新刊書『ぼくの古本探検記』は、さすがの濃ゆさ。

はなめがね本舗  オトメごころをくすぐるオンライン古本屋。町家古本はんのきでも、お馴染みです。


第2部 22日(水)〜26日(日)
駒鳥文庫  大阪・天満橋の映画関連書専門の古本屋さん。映画好きは、とりあえず全員集合。

London Books  京都・嵐山の古本屋さん。幅広いジャンルの古本を、素敵なお店で展開中。

Libretto(リブレット)  古本が大好きなお母さん。息子さんを連れて、本のあるとこ、どこまでも。

古書柳  昨年は、長岡天神の一箱古本市にも出店。日本文学を中心に。

Books Subbacultcha(ぶっくす・さばかるちゃ)  大学卒業間際の出店。ちょっとひねった古本やCDを。2月14日に、長岡京でブックイベントも開催。

文壇高円寺古書部  東京よりフリーライターの荻原魚雷さん。読書に裏付けられたセレクト。

 近隣には、町家古本はんのき、KARAIMOBOOKSさん、獺祭書房さん、萩書房さん、澤田書店さんなど古本屋さんがあります。こちらもあわせてどうぞ。

・古本フェス開催中、店内での飲食はできません。ご了承ください。
・専用駐車場はございません。公共交通機関、もしくは近隣のパーキング等ご利用ください。
・書籍のお取り置きは、引き受けいたしかねます。ご了承ください。

※詳細、お問い合わせは「獅子の歯 古書ダンデライオン雑記」を参照。
http://oldbookdandelion.blog108.fc2.com/

2012/02/03

告知

……今月二十六日に岡崎武志さんと高円寺の古本酒場コクテイルでトークショーをします。

 はじめて岡崎さんと会ったのは、二十代半ばごろ、高円寺のカウンターだけの小さな飲み屋で知り合いました。その後、古書会館や中央線界隈の古本屋でしょっちゅう遭遇するようになり、三十歳のときに、書物同人誌『sumus』にさそってもらい、わたしは文学や古本に関するエッセイを書くようになりました。

 つまり、飲み屋と古本が縁で今に至っているわけです。
 詳しい話は当日に。

 以下、告知文——。

「岡崎武志と荻原魚雷の文章を書いて生きていく方法」

 ライターデビューがほぼ同時というお二人が、そのデビューから今までの、物書きとして生きていくための方法を伝授します。
 大正時代に建てられた古民家のお座敷で、ゆったりとした時間の中、じっくりとお二人の話を聞くと、今までとは違う道が見つかるかもしれません。
 トークショー終了後には懇親会もあります、ご質問などありましたら、この機会にぜひどうぞ。

 場所 コクテイル書房 二階座敷 高円寺北3-8-13 03-3310-8130 

 2月26日 四時からトークショー開始(一時間半程度) その後に懇親会があります。

 チャージ トークショーのみ1500円 懇親会 お酒を飲まれる方1000円(おつまみとお酒付) 飲まれない方500円

※予約をお願いします。03-3310-8130 まで電話もしくはファックスで または、cocktailbooks@live.jp(@は半角)

2012/02/01

痕跡本

……久しぶりに中野に行く。中野ブロードウェイのまんだらけの記憶と古書うつつに寄って、キクマツヤでシャツを買う。薬局で常備薬を買い込む。
 中野は北口が工事中で、駅の券売機の位置が変わっている。

 愛知県犬山市の五っ葉文庫の古沢和宏著『痕跡本のすすめ』(太田出版)を読了。こんなに手のこんだ遊び心のつまった本だとはおもわなかった。カラー写真も豊富で印刷も凝っているのに、定価一三〇〇円(税別)。
 書き込みやアンダーラインだけではなく、本の傷や破れや汚れまで愛でる寛大さにはおそれいるばかりだ。数年後、古本屋で「痕跡本」のコーナーができてもおかしくない。
 東海圏のテレビやラジオの関係者は一刻も早く彼の才能に気づいたほうがいい。話術(饒舌すぎるけど)もすごいし、スター性もあるとおもいますよ。

「アホアホ本」の中嶋大介さんもそうだけど、従来の価値観を変えるような、ひとつのジャンルを作るのは素晴らしい偉業ですよ。
 誰かふたりの対談を企画しないかなあ。わたしは聞いてみたい。