2016/03/31

古本屋写真集

 岡崎武志、古本屋ツアー・イン・ジャパン共著『古本屋写真集』(盛林堂書房)を見ているうちに、いろいろなことをおもいだした。
 わたしが上京したのは一九八九年で中央線界隈の古本屋をよくまわっていた。阿佐ケ谷のブックギルド2はよく行った。漫画もけっこう多かった。
 高円寺に最初に出店したコクテイルの写真も懐かしい。わたしは『彷書月刊』のMさんといっしょに行った。二〇〇〇年か二〇〇一年ごろ、十五年くらい前の話だ。時が経つのは早い。

 古ツアさんの写真では横浜・大口のナカトミ書房が懐かしい。ずいぶん前に山田風太郎の初期の小説を買った記憶がある。
 高円寺の飛鳥書房は均一の文庫が五冊百円。飛鳥書房に寄ってOKストアで食材を買うのが日課だった。仙台のぼうぶら屋古書店は「七回目のチャレンジでようやく入れた幻店」とある。わたしもこの店にはなかなか入れなかった。

 ちょうど一年くらい前に『野呂邦暢 古本屋写真集』(盛林堂書房)が刊行されている。判型も同じ。二冊ともデザインは小山力也さん。

2016/03/27

ビッグデータ・ベースボール

 トラヴィス・ソーチック著『ビッグデータ・ベースボール 20年連続負け越し球団ピッツバーグ・パイレーツを甦らせた数学の魔法』(桑田健訳、角川書店)を読む。

《『マネー・ボール』でオークランド・アスレチックスが採用した指標は、今日の基準で考えるとかなり初歩的なものだった》

 マイケル・ルイスの『マネー・ボール』は十年以上前——アスレチックスのGMのビリー・ジーンは、出塁率をはじめたとしたデータをつかって、貧乏弱小球団を再生させた。『ビッグデータ・ベースボール』は、守備の指標をとりいれ、二十年負け越しのパイレーツをお金をかけずに強化する。今のメジャーでは、従来の定位置とはちがい、打者ごとに極端なシフトをひくことが主流になりつつある。

 守備を重視した結果、「よい投手」の条件も変わった。
 三振をたくさんとる投手より、少ない球数でゴロを打たせてアウトにする投手が重宝される。もちろん、従来の防御率が低くて奪三振率の高い投手が「よい投手」であることには変わりないが、そういう投手は年俸が高くて、貧乏球団はFAなどで獲得するのがむずかしい。
 限られた予算でチームを強くするためにパイレーツが選んだ戦略は、ビッグデータをつかって「失点」を減らすこと。
 そこでパイレーツは、打率は低いが、ボール球をストライクにする能力(ピッチフレーミング)の高いキャッチャーの獲得に乗りだす。投手の投手の球数も減らせるし、防御率の向上にもつながる。

 そこで二十年連続負け越しのパイレーツは、年々打率が下降し続けているキャッチャーと防御率五点台の投手をFAで獲得し、ファンや評論家を呆れさせる。だが、その補強がパイレーツの快進撃の原動力になる。

『ビッグデータ・ベースボール』のおもしろさは、数字の魔術だけでない。
 どれほど優れたデータがあっても、それを使いこなせるかどうかは別である。野球経験がほとんどない分析官の意見を反映させるためには、チーム内の人間関係も鍵になる。

 とはいえ、『マネー・ボール』のときもそうだったが、結局、新しい指標を取り入れたチーム作りのノウハウはあっという間に広まり、育てた選手やスタッフも資金力のある球団に奪われてしまう。
 弱小球団は後追いをやっても勝ち目はない。だから、新しい試みをやり続けるしかない。

 零細の自営業、自由業もそうだ。たいへんだけど、それしかない。

2016/03/18

五年後

 日曜日、東京野球ブックフェア、「ヤクルトスワローズ優勝記念 奇跡のツーショット 八重樫幸雄×杉浦享クロストーク(司会:長谷川晶一)」を見に行く。
 ブックフェアでは、マイク・ルピカ著『1998ホームランの夏』(ベースボール・マガジン社)、愛甲猛著『球界への爆弾発言』(宝島社)などを買った。

 火曜日、確定申告。税務署の建物のまわりをぐるっと長蛇の列。四十分くらい並ぶ。暖い日でよかった。寒かったら、体調を崩していた。帰りは阿佐ケ谷から高円寺まで歩く。歩いているうちに、斜めの道に入り、迷う。太陽の位置を見て、北の方角に向かう。しかし、どんどん高円寺から遠ざかっていくような違和感をおぼえる。しばらく歩くと、五日市街道と青梅街道の交差するところに出た。道は合っていた。
 方向音痴の人間は、自分の勘を信じてはいけない。

 歩いている途中、震災の年の確定申告をおもいだす。ペットボトルの水やトイレットペーパーや乾電池が売り切れていた。
 そのころ五年後の自分の生活は予想ができなかった。予想以上に変化がなかったが。
 二〇一一年のペナントレースは終盤、ヤクルトはケガ人が続出し、大失速した。前年のドラフトで即戦力の先発投手を当てていたら、リーグ優勝していたかもしれない。しかし、外れ外れ一位の山田哲人選手が入団していなかったら、昨年の優勝はなかったかもしれない。
 昨年のドラフトは、高山俊選手を外し、原樹理投手がヤクルトに入った。今後、このクジの結果がどう出るか。

 今、おもうようにいかないことでも、五年後どうなるかはわからない。その逆も。

2016/03/09

ゾンビの話

 昨日午前四時、外に出たら、すごい霧がかかっている。数メートル先が見えない。

 ここ数日、キンドルで『ウォーキング・デッド』(アメリカのゾンビドラマ)を観ていたので不安な気持になる。

 映画やドラマでは、勇気ある主人公はどんなに危険な目にあっても間一髪で助かる。酷い奴は、途中で改心しないかぎり、たいてい非業の最期を遂げる(もちろん、例外はある)。

 その他大勢は、脚本家のさじ加減で運命が決まる。主人公の選択に自分の生死が左右される。もし主人公の勇気ある選択によって、その他大勢が全滅したり、ズルい奴や酷い奴が生き残ったりすれば、後味がわるすぎてドラマにならない。

 ゾンビは昼より夜のほうが活発になる。音に反応する。頭が弱点である。人間たちは、限られた武器でどう戦い、どう助け合い、どう生き残るか。ゲームを観ている感覚と近い。

『ウォーキング・デッド』の逸話で主人公たちが身を寄せる農場からすこし離れた場所に、別のグループが存在することがわかるシーンがある。偶然、飲み屋でそのことがわかり、別のグループの人間が農場のことを探ろうとする。これ以上、農場は人を受け入れる余裕がない。食料や薬には限りがある。もし受け入れたら、彼らに襲われる危険性もある。さて、どうするか。

 主人公たちは一話ごとに追いつめられた状況下で、ギリギリの選択がせまられる。自分たちが生き残るためには、残忍な決断を下すしかない局面もある。きつい話の連続だ。主人公のキャラクターも含めて、アメリカの社会状況が反映されている気がする。

 消耗したので、すぎむらしんいちの『ブロードウェイ・オブ・ザ・デッド 女ンビ』(現在五巻まで。講談社)を読んだ。中野ブロードウェイを舞台にしたゾンビ漫画である。素晴らしく、くだらない。こちらは日本の社会状況が反映……されているかどうかわからない。

2016/03/04

西荻窪〜高円寺

 三日(水)、西荻窪FALLで開催中の『なんとなく、クリティック』『nu』『DU』の編集者三人による「なnd(なんど)」の展示を見に行く(『BOOK5』の松田友泉さんに教えてもらった)。

 三月二日(水)~六日(日)
http://gallery-fall.tumblr.com/post/139715324657/2016-3-2-wed-3-6-sun


 最新号の『なnd 4』はコラムが充実、読みごたえあり。お店でものを売ること、活字で本や音楽や映画を紹介すること、たぶん重なるところはいろいろある。そのあたりが、FALLと『なnd』は絶妙な組み合わせとおもったのだが、それがどう絶妙なのかはうまく説明できない。

 そのあと高円寺JIROKICHIで東京ローカル・ホンクのライブに行く。いつもいいけど、この日はとくによかった。完璧な演奏やコーラスに自由さが増している。感嘆。メンバーそれぞれの見せ場も多く、涼しい顔で信じられないような手や指の動きをしている。虫電車、ハイウェイ、遅刻します……ふと「今、自分はとんでもないものを見ているんだな」という気分になる。打ち上げにも参加し、ペリカン時代で酔いさまし(珈琲もうまいのです)。

 いい一日だった。やや二日酔い気味だが。