先月、河出文庫から出た山本周五郎のエッセイ集『暗がりの弁当』を読む。
夏バテ気味で何もする気になれないのだが、山本周五郎の随筆はすらすら、というか、だらだら読める。
「曲軒」というあだ名で知られ、頑固者のイメージが強い作家だが、「偏屈芸」といってもいような面白味がある(読者の期待に応えているかんじ)。
《私の場合は健康法というよりも、「仕事がらくにできるように」ということを主に、自己流の生活法をやっている》(行水と自炊)
夏は朝めしまえに行水。朝めしは自分で作る。パンにベーコン、卵、生野菜。午前十時から散歩(四十分から一時間)。それから午めし(そばが多い)。仕事は午前四時に終わる(夜、机に向かうのは年に一、二回。徹夜はしない)。
「酒みずく」を読むと、飲みながら仕事をしていたようだ。
《朝はたいてい七時まえに眼がさめる。すぐにシャワーを浴びて、仕事場にはいるなり、サントリー白札をストレートで一杯、次はソーダか水割りにして啜りながら、へたくそな原稿にとりかかる》
《健康を保って十年生き延びるより、その半分しか生きられなくとも、仕事をするほうが大切だ》
昼も飲む。飲みながら原稿を書き、夜も飲む。起きているあいだ、ずっと飲んでいる。心配になる。
このエッセイの初出は一九六四年十二月。山本周五郎は一九六七年二月十四日、六十三歳で亡くなった。
《規則正しい生活を続けていると、人躯は同一刺戟によって活力を消耗しやすい。ときどきバランスをこわし、人為的に耗弱させれば、却って肉躯はそれを恢復させようとして眼ざめ、活力を呼び起こすのだ、というのが私の信念であり、こんにちまで大病もせず生きてきた》(思い違い)
このエッセイも初出は一九六四年十二月。亡くなる二年前だ。わたしも自分の不規則な生活を正当化しがちなので気をつけたい。
(追記)
すこし前に山本周五郎が戦時中に書いた短篇が発掘。今月発売の『山本周五郎コレクション 戦国武士道物語 死處』(講談社文庫)に収録された(未読)。