フェルナンド・ペソア著『[新編]不穏の書、断章』(澤田直訳、平凡社ライブラリー)がまもなく刊行される。
旧版からの大増補……といっても、完訳ではない。それでも平凡社ライブラリーでペソアの文章が読めるのはありがたい。枕もとに置いて、すこしずつ大事に読みたい本だ。
フェルナンド・ペソアは、アルベイト・カエイロ、リカルド・レイス、ベルナルド・ソアレスなど、本名だけでなく、数々の異名で作品を書いていた。しかしその作品のほとんどは生前に発表されることはなかった。
その散文は、夢や人生についての思索、あるいは自問自答といってもいい。
《なぜ書くのだろうか。もっとうまくは書けないのに。だが、もし、こうしてわずかながら書き上げるものを書かないとしたら、私はどうなってしまうだろうか》
どこから読んでもいいし、読まなくてもいい。内容があるかどうかもわからない。
ペソアの文章は独り言の文学の極北かもしれない。文章の端々にひとりの時間が流れている気する。
ひとりの人間の思索にただ付き合う。途中で頁を閉じ、ものおもいにふける。ときどきそういう読書がしたくなる。