今月の中公文庫がものすごく充実している。
浅生ハルミン著『私は猫ストーカー 完全版』、正宗白鳥著『文壇五十年』、深沢七郎著『庶民列伝』、嵐山光三郎著『桃仙人 小説深沢七郎』、『淫女と豪傑 武田泰淳中国小説集』……。
各社の文庫、だいたい月十冊くらい刊行されるけど、ほしいとおもうのは一冊あるかどうか。いちどに五冊というのはかなり珍しい。
最近の文庫では、星野源著『そして生活はつづく』(文春文庫)がよかった。バンド「SAKEROCK」や役者としても活躍している人だけど、こんなにいいエッセイを書くとは知らなかった。単行本で出たときに気づかなかったのは、書評の仕事をしている身としては不覚以外の何ものでもない。
ここ数年、便利だから書店の検索の機械で目当ての本を探してしまう癖がついて、自分の守備範囲(主に文芸)以外の新刊本を見落としがちになっている。
ゆっくり棚を見る習慣を取り戻したい。
あとジョン・アップダイク著『アップダイクと私 アップダイク・エッセイ傑作選』(若島正=編訳、森慎一郎訳、河出書房新社)もおもしろそう。夏目漱石や村上春樹の書評も収録されている。
アップダイクの雑文集『一人称単数』(寺門泰彦訳、新潮社、一九七七年刊)はわたしの長年の愛読書で、野球のコラムも素晴らしい。というわけで、アップダイクのエッセイの翻訳を待ち望んでいたから、うれしくてしょうがない。