今月は梅崎春生著『幻燈の街』(木鶏書房)、『野呂邦暢 兵士の報酬 随筆セレクション1』(みすず書房)が刊行。『幻燈の街』は、単行本、全集未収録の昭和二十七年に発表された新聞小説である。
野呂邦暢の随筆セレクションも単行本未収録作品が気になる。全二巻。
仕事の合間に、山川直人の『道草日和』(小学館)、『夜の太鼓』(KADOKAWA/エンターブレイン)を読む。『道草日和』の帯の裏には『夜の太鼓』、『夜の太鼓』の帯の裏には『道草日和』の紹介文が載っている。
『道草日和』は一回八頁、『ビッグコミックオリジナル』の増刊号の連載(足掛け五年)をまとめた掌編漫画集。
主人公らしい主人公はいないけど、山川作品でおなじみの売れないミュージシャンや漫画家が、ちょくちょく顔を出す。陸橋があって、古い喫茶店、古道具屋のある町が舞台になっていて、町を行き交う人たちの小さな喜びを描いている。それぞれの回の登場人物がときどき別の話に出てくる。
夢を追いかけるだけでなく、地に足のついた暮らしの中にも幸せがある——さりげなく、そういうメッセージがこめられているようにおもう。いつまでもふらふらしているわたしがいってもまったく説得力がないのだが……。
東京に行った息子のことを心配している母親の話(「また会う日まで」)も好きな作品だ。
『夜の太鼓』の「エスパー修業」は、昔なつかしのジュブナイル風(といっても、子ども向けかどうかは微妙)の作品——「そこそこ」の自分を物足りなくおもう女の子がエスパーに憧れ、修業をはじめる。彼女がエスパーになれるかどうかはさておき、修業の過程で小さな変化があらわれる。
ちょっと謎めいた話で、読み手の想像にゆだている部分も多く、読み返すたびにいろいろな解釈ができる作品になっている。山川さんの絵はSFとすごく合っているとおもった。
メルヴィルの小説を漫画化した「バートルビー」も収録されている。
仕事はあと一山。
これから軽く飲んでくる。適量厳守の予定。