今月末に発刊予定の単行本の追い込み作業をしている。『本と怠け者』(ちくま文庫)以来、四冊目の本になる予定だ。
実は、『フライの雑誌』の最新号のプロフィールの欄に新刊の告知を載せてもらったのだが、単行本の初稿のゲラが出るか出ないかというタイミングで、タイトルが変更になってしまった。幻の題名が知りたい方は、ぜひこの号を見てください。正式なタイトルはまた後日……。
105号の特集は「日本の渓流の『スタンダード・フライロッド』を考える」。仕事のあいま、『そして川は流れつづける』(フライの雑誌社、二〇〇二年刊)をすこしずつ読んでいた。『フライの雑誌』の創刊号から五号までのエッセイと釣行記をまとめた本。釣り素人のわたしは、この雑誌をエッセイがおもしろい雑誌として読んでいる。
いつも真っ先に読むのは真柄慎一さんの文章である。この号の題は「コート掛け」。仕事が忙しかったり、引っ越しが重なったりして、解禁日がすぎても釣りに行けない愚痴を綴っている。
《「俺はなんのために働いているのだろう。」
と何も考えなしに思ってしまう。
働かなければ生きていけないし、釣りにも行けないのだが、ふと口をついてしまう》
特集の「対談 歴史に見るスタンダード・フライロッド』」には、日本のフライ市場は二十年前のフライフィッシング・ブームのころと比べて、百分の一に縮小しているという証言があった。
つい最近まで、わたしは日本にフライフィッシング・ブームがあったことすら知らなかったのだが、市場規模が百分の一になる中、専門誌を刊行し続けているのはすごいことだ。
それからこの号でいちばん熟読したのは横浜市のフライフィッシングなごみの遠藤早都治さんのインタビュー「“最初の一本”の選び方」である。
遠藤さんは「僕は新しいことにトライしよう、愉しもう、という方のお手伝いをするのが大好きなんです」と語っている。
このインタビューは、初心者向けの竿の選び方の話なのだが、そこにとどまらない。あらゆるジャンルに初心者はいる。たぶんベテランの相手をするより、夢と希望と勘違いだらけの初心者との接し方がいちばんむずかしい。甘やかすだけでなく、厳しさや奥深さも教えなくてはならないから。
どんなにマニア向けの雑誌でも、初心者に門戸が閉ざしている雑誌はダメだとおもう。