2025/06/05

無限小の一粒子

 日曜午後、西部古書会館。『東洋文庫名品展 千代田区江戸開府400年記念事業』(日本経済新聞社、二〇〇三年)、『草野心平展』(吉井画廊、一九八五年)、辰野隆編『續酒談義』(日本交通公社出版部、一九五〇年)、森永英三郎著『山崎今朝弥』(紀伊國屋新書、一九七二年)など。『東洋文庫名品展』の図録、古地図と風景画が充実している。浮世絵にかぎった話ではないが、大勢の絵師の作品を並べて見ると印象が変わる。いわずもがなかもしれないが、北斎の街道の絵は際立っている。鍬形紹意(赤子)の『東海道細見大絵図』もよかった。

 そのあと馬橋公園まで散歩する。五月の西部古書会館の均一まつりで辰野隆編『酒談義』を買い、『續酒談義』は気長に探すつもりだった。一ヶ月以内に買えた(百五十円)。「續」は洋酒、中国の酒、焼酎、ビール、酒の肴などの話。岩下邦友の装丁挿画、三井永一のカット、大森やすをの漫画も載っている。三井永一は「み」、大森やすをは「Oh」と絵にサインが付いているのだが、岩下邦友の字が読めない。「KUNI」の筆記体か。

 月曜、阿佐ケ谷と荻窪散歩。古書ワルツで『無限大の宇宙 埴谷雄高「死霊」展』(神奈川近代文学館、二〇〇七年)など。埴谷雄高が撮影した「井の頭公園にて 1978〜1983」も収録。文学展のパンフレットの写真は面白い。埴谷雄高が所属していた草野球チームのユニフォームの写真も貴重である。

 埴谷雄高は一九〇九年台湾新竹生まれ。わたしの父も新竹生まれ(一九四一年)である。父方の祖父は台湾の製糖工場で働いていた(戦後は鹿児島県大口市、後の伊佐市に移る)。埴谷雄高の父も台湾の製糖工場を転々としていた。どこかですれ違っていたかもしれない。

 話はズレるが、埴谷雄高と太宰治、それから松本清張が同じ一九〇九年生まれというのは不思議な感じがする。

『死霊』展のパンフ掲載の「『死霊』の魅力」(秋山駿)を読む。

《『死霊』のもっとも迫力あるページは、三輪与志が一人深夜の大通りをうろつきながら、自分を「無限小の一粒子」と感ずるその孤独感にある》

 深夜の大通りで「無限小の一粒子」と感じる。わたしも『死霊』のこのシーンは印象に残っている。

 人間の存在は儚い。その儚さが救いになることもあるような気がする。散歩中、宇宙の広大な空間、長久の時間を想像し、「無限小の一粒子」の感覚を味わう。心地よいときもある。