2025/04/30

一万八歩

  昨年末に仕事部屋を引っ越した。まだ片付けが終わらない。中野区大和町は大いに気にいった。大和町はJR高円寺駅、西武新宿線の野方駅の間にある。引越し前から日課の散歩でよく通るところに条件ぴったりの物件があった。前の仕事部屋も散歩道にあった。

 四十代後半から街道の研究をはじめ、風土といわれるものが気になるようになった。

 二十九日、祝日。起きたら午後三時。石川喬司著『SFの時代 日本SFの胎動と展望』(双葉文庫、一九九六年)の眉村卓(「インサイダーSF」)のところを読む。すこし前、西部古書会館で買った。仙台の阿武隈書房(福島県いわき市、仙台に店がある)が出品していた。阿武隈書房の棚、他にも面白そうな本がたくさん並んでいた。

 プロ野球のデーゲームの結果を見て、大和町を散歩する。きれいな夕焼けだった。そのまま妙正寺川沿いの道を歩いて、環七の野方駅南口バス停近くの歩道橋を渡る。四十代半ばあたりで克服したとおもっていた歩道橋、薄暗い時間だとちょっと怖い。手すりが低い歩道橋もちょっと苦手だ。
 平和の森公園あたりで日が暮れる。
 午後七時すぎ、西武新宿線沼袋駅に到着。北口に一の湯という銭湯がある(今回は入らなかった)。
 高円寺駅から沼袋駅に行くなら中野駅まで行って、まっすぐ北に行くほうが近い(バスもある)。川沿いの道はかなり遠回りになる。
 沼袋駅から電車で下落合駅へ。新目白通りを高田馬場方面に向かって歩く。新目白通りは東京スカイツリーがよく見える。

 ここのところドコモタワーやスカイツリーを見る話を何度となく書いている。風景は誰のものか。最近そういうことを考えている。

 都会は目まぐるしく景観が変わる。いっぽう地方に行けば、昔と同じ景色が残っているところはいくらでもある。

 旅の途中、昔ながらの雰囲気の場所を訪れると気持が安らぐ。自分が生まれる前の町並が残る旧街道を歩くのも楽しい。でも変化のなさが嫌で町を出ていく人もいる。

 妙正寺川の辰巳橋を渡り、神田川の田島橋。さかえ通りを歩いた。高田馬場駅から電車で高円寺に帰る。家に着いたら一万八歩。万歩計を買って十七年になるが、一万歩ぴったりだったことはまだない。

 先週末、『フライの雑誌』の堀内さんと飲んだ。水生昆虫のことをいろいろ聞いた。酔っていたので、おぼろげな記憶しかないのだが、カゲロウの成虫は数時間から数日の寿命で口がない。

 そう考えると人の一生は長い。長い分、面倒くさいことも多い。二十代のころから、わたしは食っていけるかどうかの心配をしている。

 晴れた日に一万歩以上歩くと頭がすっきりする。胸のうちの不安は消えないが、多少軽くなる。一日一日、生きていることでよしとする。