島田潤一郎著『あしたから出版社』(晶文社)を読む。二〇〇九年、“ひとり出版社”の夏葉社を創業。マラマッドの『レンブラントの帽子』(小島信夫、浜本武雄、井上謙治訳)、関口良雄著『昔日の客』を復刊し、わたしのまわりの古本好きのあいだでも話題になっていた。「若い人がやっている出版社らしい」「飲むとおもしろい人らしい」という噂も耳にした。
島田さんは二十七歳まで作家志望でアルバイトで暮らしていた。その後もほとんど定職に就かず、三十一歳になって真剣に仕事を探しはじめる。
《結局、ぼくは、転職活動をはじめてから八ヶ月で、計五〇社から、お断りのメールをもらった。
だれにも合わせる顔がなかった》
《転職に失敗したら自分で事業をやるしか方法はないのかもしれない、とそのころからぼんやり思いはじめていた》
島田さんの夏葉社がうまくいったのは「たまたま」なのかもしれない。いや、うまくいっているのかどうかはわからない。たぶん楽ではないとおもう。島田さんのやり方でうまくいくとは限らない。
追いつめられ、どこにも行けなくなって、自分の道を切り開くしかなかった。それで出版社を作って、自分が読みたい本を出した。
夏葉社の本は一冊一冊すべて島田さんのおもいがこもっている。手間がかかっている。
そういう本に飢えていた読者はそれなりにいたはずだ。わたしもそのひとりだ。
夏葉社の社名の由来はこの本ではじめて知った。